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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


日影丈吉『殺人者国会へ行く』(ベストブック社)

 日影丈吉の『殺人者国会へ行く』を読む。全集がある現在はともかく、ちょっと前まではなかなか入手しにくかった本である。管理人も長らく探していたが、先日、ネットオークションにてラーメン2杯分でようやくゲット。やっと読むことができた次第である。まずはストーリーから。

 衆議院予算委員会の二日目。野党である労社党の代表質問に立ったのは、副委員長の江差。彼はあるコンビナートの廃棄物処理に絡む汚職問題について、与党である資民党に対し、ある証拠をもって告発するところであった。しかし、まさにその直前、江差は青酸カリによって毒殺されてしまう。前代未聞の国会での殺人に、警視庁はベテランの敏腕刑事、仙波警部を捜査にあたらせたが……。

 今回、ややネタバレあり。

 出だしは日影丈吉らしからぬ社会派ミステリ。汚職にまつわる大物政治家の殺害ということで、これまで読んできたどの日影作品ともテイストは違う。で、本作はこの違いのために正直かなり読みにくい。
 単に政治を扱っている社会派だからとか、事件自体にほとんど動きがないとか、仙波警部が地味だとか、捜査もあまり進展がないとか、まあだれる要素はいろいろあるのだが(笑)、それにしても辛い。もともと日影丈吉の文章はさくさくっと事実だけを読ませるものではなく、味わって読みたい文章である。それが扱う内容と見事に拒絶反応を起こし、消化不良になってしまった感じである。
 また、後半に入ると面白いことに、意外な探偵役の登場や密室など、本格のコードが織り込まれてくる。ところが、それはそれで前半からの流れにうまく乗っていない感じで、なんともチグハグな印象しか受けない。いろいろと詰め込みたかったのか。それとも社会派であっても本格が成立するところを見せたかったのか。あるいは当時流行の社会派的味付けを加えたかったのか。何か狙いはあったのだろうが、なにせ舞台設定が政界なだけに、本格という娯楽最優先のコードはどうしても浮いてしまう。
 おまけに真相も中途半端。何より作者の眼が社会悪とか巨悪には向けられていないのが不満だ。こういう大きな社会問題を扱いながら、それをうっちゃってしまって個の殺人に収束させるべきではない(絶対駄目というわけではなく、上手にやってくれればOKなんだけどね)。そもそもこんな動機で、国会で殺人を起こしちゃだめだって。
 本作は、相反する要素をむりやり詰め込んだ失敗作といっていいだろう。そもそも社会派風にしなきゃよかったと思うのだが……。それをいっちゃあお終いか。
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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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