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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジェフリー・ディーヴァー『12番目のカード』(文藝春秋)

 ジェフリー・ディーヴァーの『12番目のカード』読了。リンカーン・ライムもの。

 博物館の図書室で、先祖について調べる十六歳の少女ジェニーヴァ。その彼女を影から狙う男がいた。しかしジェニーヴァは機転を利かせ、男の手から逃れることに成功する。現場にはレイプのための道具が残されていたことから、最初は単純なレイプ未遂事件かと思われた。しかし実は、140年も前に遡る陰謀に関係があることが判明する。

 本作のキモは現在進行形の事件と140年前の事件、ふたつの事件に焦点が当てられているところだろう。この謎の究明にいつものジェットコースター的展開、および徹底的な科学捜査による味つけが為され、相変わらず読ませる力は天下一品。
 しかしながら、いつものライム・シリーズに比べて、平均的におとなしい印象は拭えない。特に気になるのが犯人像の弱さ。前作『魔術師』に登場した敵役ほどの強力な攻め手がないため、ライムたちの防御も比較的スムーズで、ライムどころか普通の刑事にすらいいところを持っていかれる始末。当然それは展開の弱さをも招く。
 また、終盤のどんでん返しも数が多いだけで、個々のインパクトは弱い。単に読者を驚かせたいだけでは?と勘ぐるぐらい無理矢理な印象だ。本筋とは関係ないジェニーヴァのサイドストーリーでけっこう鮮やかな仕掛けを凝らしているので、余計にもったいなく感じる。

 結論。人には十分オススメできる水準とはいえ、ライムものではかなり低調な部類だろう。それともこちらがディーヴァーに望むレベルが高すぎるのか? シリーズが抱えるマンネリ化という宿命、そしてライムという特殊な主人公を使う必然性を考えると、やはりそろそろシリーズを止める頃ではないのだろうか。いろいろと考えさせられる一作である。

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Comments

Edit

このシリーズの面白さは十分に認めているのですが、私はそろそろ止めてほしいなぁという気持ちなんですよね。
どれだけ魅力的な捜査方法や事件、犯人をもってしても、ライム自身が抱える苦悩のドラマを超えることはないだろうなと思うから。それってエンターテインメントとしてはどうなんだろうなあと考えてしまいます。
また、これだけ強烈な設定で登場したシリーズですから、後の作品の方がどれだけ完成度は高く面白かったとしても、第一作の衝撃を超えることだけは絶対にないでしょう。
そんなこんなで、このシリーズはジリ貧になっていきそうな予感がしているわけです。まあ、私個人の勝手な思いこみではありますが。

Posted at 00:27 on 06 22, 2007  by sugata

Edit

読み終わったところです。相変わらずのジェットコースターサスペンスで、昨夜はずっと椅子で固まって読んでいたので、気がつくと腰とおなかが痛かった(^^;
確かにおっしゃる通り、『魔術師』が強烈だったので今回の犯人はいまいちでしたね。前半はよかったのですが、後半に入ると犯人の魅力が半減し、展開も小賢しいどんでん返しの連続という感じで尻すぼみ気味なのが残念でした。
でも140年前の事件とジェニーヴァの境遇が徐々に明らかになっていく過程は、最後まで面白かったです。
今回は、ライムはまた一山乗り越えたようですが、これもちょっととってつけたような気はします。私は彼が精神的に再生するまではシリーズを続けてほしいのですが、そのストーリーとこのシリーズのエンターテイメント性の融合は難しいのでしょうか・・

Posted at 20:17 on 06 21, 2007  by Sphere

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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