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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

フレデリック・ダール『蝮のような女』(読売新聞社)

 本日のお買い物は、エドガー・ウォーレス 『正義の四人』(長崎出版)、山下利三郎『山下利三郎探偵小説選I』(論創社)、山沢晴雄 『離れた家』(日本評論社)。
 毎度のことながら、このとんでもないラインナップがすべて新刊で買えるのだからけっこうな御時世である。論創社は言うに及ばず、長崎出版だって当初の不安も何のその、けっこう安定して供給し続けているのは立派というしかない。おまけに日本評論社は、ついに<日下三蔵セレクション>というシリーズ名までつけているではないか。これは今後も期待してよいということなのだろうね?

 本日の読了本はフランスミステリの大御所フレデリック・ダールから『蝮のような女』。

 人生に厭きた男の前に、たまたま現れたアメ車の女。暗闇の中で顔もよくわからないまま行きずりの関係をもってしまった男は、その女を忘れられず、覚えておいた車のナンバーから住所を割り出すことに成功する。しかし、その家に住んでいたのは、車椅子生活を余儀なくされる妹と、その看病に人生を注ぐ姉の姿だった。この姉妹が、あのときの女性であるはずがない。男は屋敷を去ろうとするが、いつしか奇妙な三角関係のただ中に巻き込まれていた……。

 主な登場人物は男と姉妹のたった三人である。「関係をもったあの夜の女性はいったい姉妹のどちらなのか」、主人公の男以外にはまったくどうでもいいような謎で序盤を引っ張るため、ほんとに二時間ドラマ向きな印象。ところが中盤から男と姉妹の間に奇妙な三角関係が生じ、それが表面化することで特殊な緊張感が生まれる。徐々に姉妹の本音が露わになり、それにともない憎悪は殺意へと高まる。
 そして結局は、姉妹のどちらかが嘘をついているしか答えはないはずなのだが、ダールはここでもう二手間ほど加え、なかなか毒のある物語に仕立て上げている。フランスミステリ独特の心理的閉塞感を楽しむには最適の一冊。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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