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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マイクル・イネス『アプルビイズ・エンド』(論創海外ミステリ)

 マイケル・イネスの『アプルビイズ・エンド』を読む。

 ある事件の調査で列車に揺られていたアプルビイ警部。しかしいい加減な時刻表と大雪のせいで乗り継ぎには間に合いそうもなく、車内で知り合ったレイヴンという一家の館に泊めてもらうことになる。ところが館へ向かう途中で迎えの馬車が川で立ち往生、アプルビイはジュディスというレイヴン家の娘と館をめざすが、途中で馬車の御者が死体となって、雪に首まで浸かっているところを発見する……。

 粗筋を少し説明したぐらいでは、この小説の雰囲気を伝えることは難しい。『ストップ・プレス』でも目立ったコメディ要素だが、本作はカーもかくやというスラップスティックなのだ。
 いや、噂には聞いていたが、これが本来のイネスの作風なのだろうか。衒学趣味はもちろん全開なのだが、それを上回るコメディ・センス。正しくイネスの作風を掴んでおかないと、翻訳の段階でその雰囲気を誤ってしまうことは十分考えられるわけで、特にこういうユーモアの要素は難しいはず。作者がこれを笑ってもらおうと書いているのか、それともいたって真面目に書いているのか、訳者も相当気を遣ったに違いない。ましてやこれまで文学的とまで言われてきたイネスの作品とあっては。
 ただ、この作品におけるユーモアというかドタバタ要素は、味つけだけでなく、ある程度ネタにも直結している。おそらくくそ真面目にこのストーリーを展開しては、ミステリとしての価値も半減するだろう。このドタバタ要素はある意味必然であり、本作の魅力もそこにある。とはいうものの、このドタバタが生理的に受けつけない人は、ミステリの価値などくそくらえであろう(笑)。個人的にはメインのネタ、ユーモアセンスともに嫌いではなく、これはこれでありでしょう。
 アプルビイと後に結婚するジュディスとのなれそめも本作で紹介されるので、少なくともイネス・ファンは読んでおくべき作品である。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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