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 複数の少年を惨殺して逮捕された殺人犯の、死刑執行日が迫っていた。その殺人犯に面会を求める一人の心理学者。依然として見つかっていない最後の犠牲者の眠る場所を、もしかすると聞き出せるかもしれないのだ。しかし殺人犯はその場所を教えるどころか、いまだに自分が無実だと主張していた……。
 一方、かつての荒んだ日々はどこへやら、スカダーはエレインとともに平穏な暮らしを送っていた。そんなある日、AAの集会で知り合ったルイーズという女性から、交際相手の身元調査を依頼される。しかし、調査を始めたとたん、スカダーらはあっという間に尾行をまかれるはめになる。相手ははたして何物なのか?

 ローレンス・ブロックの『すべては死にゆく』読了。現時点では最後のマット・スカダーものであり、そして読み終えた限りでは、シリーズ最終作の気配が濃厚である。

 最終作かも云々、という話は横においておいて、まずは本書の感想をまとめておこう。
 相変わらずといえば相変わらずなのだが、語り口や会話は非常に巧い。話術でもたせるハードボイルドといってもよいぐらいだ。それらを通してブロック自身の哲学や主張が伝わってくるのも相変わらずで、この辺はパーカーのスペンサー・シリーズを連想させる。ただスペンサーものの主張は常に一定でぶれがない分、新味はない。その点、スカダーとエレインの会話は、声高な主張ではないが、アメリカという国家の抱える病などを常に反映させることを忘れず、深く染み込んでくる。特に9.11はブロック(だけではないだろうが)に多大な影響を与えたようで、最近のいくつかの作品では、思考における尺度のひとつとしても機能しているように思える。また、ある種のリズムを感じられる会話文が個人的にたいへん心地よく、これは訳者のお手柄だろう。
 それに比べると、ストーリーは倒錯三部作の踏襲というべきか。狡猾な猟奇犯を迎え討つというパターンは後期のスカダーものにおいて非常に多く、どうしても印象としてはよくない。犯人像もかなり凶悪ではあるが、やりすぎの感も否めず、特に刑務所の件はもう少し説得力があればと思う。
 ただ二つの事件をモジュラー的に進めていき、きれいに交差させているところは見事。決してつまらないわけではないので念のため。

 さて、本書がシリーズ最終作になるのではではないかという話。これは過去に登場した人物についての言及が多いことや、スカダー自身がシリーズ中でも屈指の危機に陥ることなどが理由として挙げられる。そして極めつけ、終盤のスカダーの無意識の中で流れる「イメージ」が、それを如実に物語っている。
 語るべきことを語り終えたのか。それともマンネリを嫌ったのか。あるいは小説からも離れてゆくのか。二十年以上も前にスカダーを読み始め、作品を通じてハードボイルドの何たるかを教えてもらった身としては、とにかく寂しい限りだ。だが、スカダーも既に六十八歳。いい加減にリタイアすべき年齢ではある。
 正直、これで終わるならそれもやむなし。だが訳者の田口氏が言うように、もう一作だけならあっても悪くはない。その場合は、猟奇犯など出てこないものを読んでみたい。たとえそれがスカダーの死であったとしても、ぜひともエピローグにふさわしい穏やかな幕切れであることを望む。

 なお、シリーズのファンなら買いの一冊だが、スカダーものを初めて読む場合はもちろんこの限りにあらず。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



















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