ADMIN TITLE LIST
 河出文庫のミステリー紀行から『金沢ミステリー傑作選』を読む。今では絶版の、このミステリー紀行シリーズだが、意外な作品が入っていたり、普段は絶対に手に取らないような作家のものが読めたりと、けっこう楽しめる。知らない人は「トラベルミステリー」とひと括りにして敬遠するかもしれないが、この水準は侮れない。お試しあれ。

 能書きはこのくらいにして『金沢ミステリー傑作選』である。まずは収録作から。

杉森久英「芋掘り藤五郎の町」(序文)
五木寛之「聖者が街へやってきた」
半村良「箪笥」
連城三紀彦「紙の鳥は青ざめて」
杉森久英「豪雪と一癖斎」
南条範夫「消えたり百万石」
江戸川乱歩「押絵と旅する男」
水上勉「うつぼの筐舟」

 実は管理人sugataが金沢を県庁所在地に置く石川県の出身であり、そういった意味で今回はいつも以上に楽しむことができたのは言うまでもない。作品の舞台の多くは実際に目にしたことのある土地だけに、雰囲気もわかるし、理解も早い。ましてやこれがなかなかの傑作揃いなのである。
 嬉しかったのは、意外なくらい金沢(そして北陸)という土地をしっかり活かした作品がそろっていたこと。というのも、このシリーズは往々にして、その地方ならではの必然性に乏しい作品が多かったりするからである。地名を置き換えても通用するような作品は本来このシリーズの趣旨に合わないとは思うが、作品の頭数と質を揃えようとするとやむを得ない場合もあったのだろう。その点、本書は北陸という風土が芯に据えられており、十分合格点を与えられる。
 反対に残念だったのは、広義のミステリが多かったこと。例えば「聖者が街へやってきた」「箪笥」「豪雪と一癖斎」あたりはどう考えてもミステリには入らん。あと、ついでに書いておくと、「押絵と旅する男」は確かに大傑作ではあるが、これを御当地ミステリとして扱ってよいのか本当に(笑)。

 最後にお気に入りの感想など。
 「聖者が街へやってきた」は、金沢に突如現れた不思議なヒッピーの集団による騒動を描いたもの。しかし、ヒッピーは表面的な題材に過ぎず、根底には地方でくすぶる野心家たちの心情を描くというテーマがある。金沢特有の気質が、主人公たちの暴走をより加速する。
 「箪笥」は何度目かの再読だが、何度読んでも怖い。全編、能登弁での語りであり、石川県人にはとりわけ恐怖感倍増である。ばっちりのイントネーションでこれを読めるのは、ちょっと自慢(笑)。本書のベストといっていい(「押絵と旅する男」はさすがに別格だが)。
 「紙の鳥は青ざめて」は連城三紀彦ならではの叙情溢れる一編。なんとなくトマス・H・クックを連想してしまった。そのうち連城三紀彦も集中的に試したい作家である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




| HOME |

Design by mi104c.
Copyright © 2017 探偵小説三昧, All rights reserved.
ネット小説