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 ニューヨーク州の地方都市ウィンストン。ギャングと政財界、役人の癒着は今に始まったことではなく、昔から人々はそれなりに折り合いをつけて暮らしてきた。主人公のティムもその一人。自ら犯罪に手を染めることはなかったが、見て見ぬふりをすることで生きる糧を得、今では街で唯一の私立探偵として、不自由のない生活を送っていた。
 そんなある日、「市政浄化連盟」と名乗る団体から、ウィンストンの汚職を正すべくティムに接触がある。同時にティムの命を狙った事件が立て続けに発生し、いつしかティムは街中を揺るがす大事件のど真ん中にいる羽目になる。

 ドナルド・E・ウェストレイクの長編第二作目『殺しあい』を読む。ハードボイルド界の期待の新星と言われていた頃の作品で、大量殺戮が描かれていることから、ハメットの名作『赤い収穫』とも比較される。ただ、さすがにこの比較は分が悪いとしても、ウェストレイク流の『赤い収穫』も十分に満足できるレベルである。

 ハメットの作と大きく違う点は二つ。
 一つはあそこまで辛口のハードボイルドには至っていないこと。まあ、人は山ほど死ぬのだが、主人公の設定が少々甘口。というのも主人公はギャングではなくあくまで民間の探偵。タフなやりとりには場数を踏んでいても、自ら人を殺めることはない。それどころかクライマックスの大量殺戮が始まった直後は、ショックのあまり相棒にハッパをかけられる始末だ。しかし、こういった機微、つまり一見タフに見えながら、実はデリケートな部分を含む男だからこそ、物語に深みを与えるわけであり、ただの殺伐とした物語にしたくはないというウェストレイクの計算であろうと思う。
 もうひとつハメットと異なる点。そして、これもやはりありきたりのハードボイルドにしたくないという気持ちの表れだと思うが、謎解きの部分が意外なほどしっかりしていることだ。これはデビュー作『やとわれた男』でも同様だが、ちゃんと終盤に関係者を集めて謎解きを行うシーンまである。しかも本作では、登場人物同士で犯人を推理し合うみたいな場面まで盛り込まれているから楽しい。

 残念なのは、登場人物が多すぎるのと、そのせいでキャラクター造形が全般的にやや弱いところ。あれだけの数だとどうしても薄味になるのは避けられないのかもしれないが、主人公のキャラクター以外に印象的な人物が少なく、その面での満足度はちょっと低い。
 そうはいっても全体的には非常に満足できる作品。よくもこの複雑な要素を巧くまとめたなというのが一番の感想だ。意外な犯人の正体と事件の絡繰りがほぼ明らかになったところで、クライマックスの壮絶な戦いにつなげるところもサービスが行き届いている。そして何とも印象的な苦い結末。
 現在のユーモア・ミステリもいいのだけれど、こういうタッチのものも、たまに書いてくれてもいいのにね。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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