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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


矢崎存美『ぶたぶた』(徳間デュアル文庫)

 矢崎存美『ぶたぶた』を読む。
 数年前にはネット上でも少し話題になっていた本だが、なんせ徳間デュアル文庫というハイティーン向きのシリーズだし、主人公がぶたのぬいぐるみだしということで、当時はそれほど興味をそそられなかった作品である。別にそういうジャンルが嫌いとかいうわけではないのだが、可愛らしさを全面的に押し出した装丁などからわざとらしさを感じ、敬遠してしまったのかもしれない。けっこう前のことなのでもうはっきり覚えちゃいないのだが。
 で、今回はたまたまブックオフで見つけ、たまたま読んだわけだが、想像していたよりははるかに面白かった。いや、面白いというよりは、やっぱり和むというべきだろう。
 まず感心するのは、生きている「ぶたのぬいぐるみ」=「山崎ぶたぶた」の扱いや作中人物との距離感である。ぶたぶたの不思議(なぜ生きているのか、食事をどうやって食べているのか等々の疑問)に対しては作中でさらっと流すほか、主人公を人間側においたり、ぶたぶたを狂言回し的に使うことで、ファンタジー色を意識的に抑えている感じだ。これによってドラマがより自然に浮かび上がり、結果としてハートウォーミングな物語にありがちなあざとさも抑えられ、意外にも大人のための物語に仕上がっている(まあ、設定だけでも十分にあざといという話もあるが)。
 ただ、狂言回しとは書いたが、ぶたぶたの存在感はそれでも十分に大きいし、ストレートにぶたぶたが主人公になるような話もある。しかし控えめな中年のおじさんと思しき設定がかなり効いており、この性格設定がなければ、ここまで癒しの力は生まれなかっただろう。
 連作短編集という形も成功した理由のひとつか。ひとつひとつの話はワンパターンといえばワンパターンだ。ぶたぶたと偶然に知り合った人たちが、自然体で生きるぶたぶたと交友することによって、自分の生き方もちょっぴり素敵な方向に軌道修正していくという流れがほとんど。単品でも十分にいけるが、各作品に微妙につながりをもたせることで、ラストの話がいっそう効果的になっている。
 ちなみに本書を読んで、フィービ&セルビ・ウォージントンの『○○やのくまさん』シリーズを思い出した。これは「郵便屋さん」や「パン屋さん」に扮したくまのぬいぐるみの一日を著した絵本のシリーズで、もしかしたら著者はこのシリーズをどこかで意識していたのかもしれない。気になった人はだまされたと思って、そちらも読んでみてください。きっと気に入るはず。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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