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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


久生十蘭『真説・鉄仮面』(講談社大衆文学館)

 デュマの『ダルタニャン物語』などで有名なフランスの鉄仮面伝説。それを久生十蘭流に料理した『真説・鉄仮面』を読んでみる。講談社の大衆文学館版である。

 鉄仮面伝説というのは、仏王ルイ十四世には実は双子の兄がいて……というお話。本来なら彼こそが王座につくはずだったものの、王家からは離れて育てられ、その存在を王家に知られた後も王の座を守りたいルイ十四世によって、三十年以上もの長きにわたってバスチーユ監獄に幽閉されていたという悲劇を描いたものである。鉄仮面は王と瓜二つの顔を隠すためのものであり、食事中ですらその仮面を外すことはできなかったという。

 まあ、有名な話だし、好きな人はとことん好きな物語であろうが、実は管理人はこの辺の歴史には弱く、最初は物語の背景や人間関係をつかむだけで精一杯。しかし三、四十ページを過ぎ、ある程度のところが頭に入ってくると、どんどん魅了されていったのだから不思議なものだ。
 これは冒険譚としてベースがしっかりできあがったものであることはもちろんんなのだが、十蘭ならではの流れるような文体の功績が大きいといえるだろう。単にリズミカルなだけではなく、この歴史物語にふさわしい、やや時代がかった言い回しが気持ちよい。

 運命を、それがたとえ悲惨なものであろうとも、従容として受け入れる。そんなモチーフが込められていると、都筑道夫は桃源社版の解説で書いている。これは日本人にこそ受け入れられやすい美学であり、人生観であるともいえる。ただ、読んでいる間はことさらそんな難しいことは考えなくともよい。本作は冒険譚、伝奇としても一気読みできる娯楽作品なのである。そして読み終わったあとに、少しだけ主人公マッチョリの生涯を省みれば、自ずと自分の死生観などにも思いを巡らせられるのではないだろうか。これぞ大衆文学の極み。

 残念ながら本書は桃源社版、講談社大衆文学館版ともに絶版。もしかしたら三一書房の全集は現役かもしれないが、ただ、現在、新たな全集が企画中との話もある。数年は我慢しなければいけないが、それを待つのもまた一興かと。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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