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山沢晴雄『離れた家 山沢晴雄傑作集』(日本評論社)
iPod touchを早くもゲットして会社に持ってきたやつがいる。さっそくいろいろと遊ばせてもらったが、こりゃ良いわ。iPhoneがいつになるかわからない現状では、これで喉を潤すしかないのだが、いやあ電話がなくても十分楽しいではないか。
難を言えば、やはり容量に対する不満。あとは、ここまでやったのだから、ワンセグはフォローしておいてほしかった。
とはいうものの、デザインはいいし機能性も高い。独特の操作感が賛否両論出るかもしれないが、個人的には買い。
読了本は山沢晴雄の『離れた家 山沢晴雄傑作集』。収録作は以下のとおり。
Part 1 砧順之介の事件簿
「砧最初の事件」
「銀知恵の輪」
「死の黙劇」
「金知恵の輪」
Part 2 扉の向こう側
「扉」
「神技」
「厄日」
「罠」
「宗歩忌」
「時計」
Part 3 離れた家
「離れた家」
まず山沢晴雄という作家の著作が、こうして一冊にまとめられたことだけでも素晴らしいのだが、すでにミステリサイトの多くで採り上げられ、内容の方も非常に評判がよろしいようだ。
どの作品をとっても本格マインドに溢れ、これでもかというほどの技巧で読者を煙に巻いてゆく。その頂点はもちろん「離れた家」という中編にあり、実はこれが二度目の読了になるのだが、以前にも増してその組み立てに感心してしまった(ちなみに一度目は鮎川哲也の編んだアンソロジー『硝子の家』に収録されたもの)。
ただ、あまり褒めるだけでもアレだし、本書を傑作と認めたうえで、あえて意地悪な意見も書いておこう。
その最大の欠点は、やはり作者が探偵小説を限りなくパズルに近いものとして捉えていることの弊害。どうしても小説としての面白さに欠けてしまうのである。まあパズルオンリーのミステリを全面否定するわけではないのだが、山沢晴雄の場合はやりすぎている感が強く、他の要素が極端に弱くなってしまう。
例えば物語の構成や設定はトリックやテクニックを見せるために存在するので、それほど魅力的な舞台装置には至らない。あくまで技巧を見せるためのパーツだからである。そういう小説だと言ってしまえばそれまでだが、実は人間ドラマ的な要素もけっこう加えたりもするものだから、それがまた浮いてしまう。人間や心理の描写もベタだ。この辺のレベルが一段上で、神懸かり的なテクニックと融合していれば……と思うと残念でならない。アマチュアの道を選んだ作家とはいえ、小説本来の技術ももちろん必要なのだ。
ちょっと横道に逸れてしまうが、同じようにアマチュアとして活動し、本格の最右翼といえる作家に天城一がいる。彼の場合も山沢晴雄と同様の欠点を孕んでいるのだが、極端を通り越して、狂気すら宿っている。その狂気があればこそトリックやロジックだけでなく、文章までもが独特のリズムを生み、天城一ならではの世界を構築している。それに比べると山沢晴雄は、マニアックではあるけれども、やはりある意味、常識人なのであり、それ故に突き抜けるところまではいっていない。
小説としての完成度を高めるのか、あるいは天城一のように極限まで行き着くのか。「離れた家」は別格としても、その他の作品にはもうひとつ何かが必要であると思う。
Comments
読みました。
『このミス』の短編オールタイムベストで、法月綸太郎が『離れた家』を一位に挙げていたので、無性に読みたくなって一気の読了です。
私も『離れた家』は光文社文庫のアンソロジーで既読でしたが、その時はよく理解できず(笑)、今回二度目にしてようやくその凄さが理解できたかなという感じです。中盤でそれまでと全く関係ない不可能犯罪が差し込まれるのは忘れ難いインパクトですね。
アマチュアならではの(←これも変な言い方ですが)文章の拙さも、こうして纏めて読むと目立ってしまいます。特に『宗歩忌』のような非本格の作品だと、「これを日影丈吉が書いていたら」とか余計なことを考えます。
とはいえ根っからの本格好きとして、やっぱりもっと読みたい(笑)。たまたまシャレードの一冊だけ購入して所有しておりますが、論創社辺りでポロッと出ないかなぁ? ベスト盤の本書が出た現在では流石に無理でしょうね‥‥。
Posted at 23:28 on 12 19, 2014 by くさのま
山沢晴雄はどこでも評判がいいのですが、やはりそれは偉大なるアマチュア作家、幻の作家というイメージがだいぶ良い方に作用してますよね。ゆうたらご祝儀みたいなもんです。もちろん、その評価に値するだけのものは技術は持っていると思うのですが、その技術があくまでパズルの部分にしか向けられていないのが弱点です。
ただ、「離れた家」だけはそういう弱点を補ってあまりある魅力を備えています。これだけは読んでおいた方がいいですよ。
Posted at 23:31 on 10 06, 2007 by sugata
山沢晴雄は、ちょうど天城一『島崎警部~』の巻末に付いてる「天城ミステリを探る」という文を読んだところでした。ご自分でも「二人とも難解な作風なので同じ<本格派>と見られがちだが、作品を書く姿勢が全く違う。天城一は作中に時代相を読み込むのに対し、私は手品を紙の上でやって見せて読者を驚かせたいという手品文学」というようなことを書かれていますね。
なにか読んだことあったかなと思ったら、『「密室」傑作選』で「罠」を読んでました。これはきびしいかも・・
でも「離れた家」は読んでみたいですね。
Posted at 21:06 on 10 06, 2007 by Sphere
くさのまさん
こういう傑作集が出てしまうと、確かにもう一冊は難しいですよね。これを無かったことにして、あらためて文庫で全集を出すというのなら、少しは目がありそうな気もしますが、果たして何千部売れるのかという話ですね。
まあ、私は買いますけど(笑)。
Posted at 01:23 on 12 20, 2014 by sugata