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野村胡堂『野村胡堂探偵小説全集』(作品社)
この三連休は久々にブログの方も毎日更新。読書ペースも割と良い感じで、この二ヶ月ほどぼちぼちと読んできた『野村胡堂探偵小説全集』をようやく読み終えることができた。なんせ普通の単行本に比べても判型は大きいし分厚いしで、とてもじゃないが通勤のお供にはまず不可能。夜寝る前に、短編ひとつ、みたいなペースで読んできたのだ。
野村胡堂といえばもちろん代表作は「銭形平次」。しかし「銭形平次」での知名度が圧倒的すぎるため、逆に他の作品はあまり知られていない。実は平次以外の捕物帳もあるし、時代伝奇小説やホラー系もあったりと、意外とジャンルも幅広い。そして本書のように探偵小説も書いていたのである。
ただ、そっちはどちらかというと少年向きがメインだと思っていたら、これがまたシリーズ探偵もしっかり存在する、ちゃんとした本格探偵小説なのである。読む前はどうしても「銭形平次」のイメージを引っ張っていたので、どうせ人情話っぽい作りなのだろうなと思っていたのだが、どうしてどうして。こちらはきっちりと本格の体を為しており、トリックも理化学的なネタが多いなど、あくまで事件を科学的論理的に解決してゆく。書かれた時代は1928~1935年。さすがにしょっぱい(というか当時としてはアンフェアな)トリックも少なくないのだが、そんな時代に探偵小説プロパーでもない野村胡堂がこれらの作品を書いていたことに驚く。何はなくとも、まずはこの著者の姿勢にしびれるではないか。
もちろん当時の探偵小説につきものの雰囲気の良さも絶品である。大人向けでありながら、「ですます調」を用いているところがまた憎い。野村胡堂がどういう意図で「ですます調」にしたのかは知らないが、これがレトロなムードを醸し出しているのは間違いないところだし、講談調にも通ずるところもあって、文章の流れが実によい。これはグダグダと管理人の説明を聞くより、一度読んでもらえればわかるはず。とにかく読んでて気持ちいいのだ。
シリーズ探偵は警視庁刑事の花房一郎。ただ、物語の進行役は新聞社の社会部次長の千種十次郎、とその部下の早坂勇が務めることが多い。この三人がいってみればレギュラーで、「銭形平次」に喩えるなら花房が平次、早坂が八五郎、千種がその中間的役割を担っている。本書にはノン・シリーズ作品も収録されているが、やはりオススメは花房シリーズであろう。
とりわけ判官三郎という和製ルパンが登場する「古城の真昼」「判官三郎の正体」は実に楽しい。今でいうスピンアウト作品になるだろう予感を残しつつ、残念なことに判官三郎ものはこの二作で終わっているのが残念でならない。
とにかく久々に堪能した一冊。値段は相当なものだがボリュームもあるし、野村胡堂の探偵小説がこれだけ手軽に読める機会はそうそうない。エッセイ等も含めて実にお買い得である。しかも限定1000部の刊行。三度の飯より戦前の探偵小説が好き、という人はぜひお早めに。
最後に収録作。
「呪の金剛石(ダイヤモンド)」
「青い眼鏡」
「死の予告」
「女記者の役割」
「踊る美人像」
「悪魔の顔」
「流行作家の死」
「古銭の謎」
「悪人の娘」
「古城の真昼」
「判官三郎の正体」
「音波の殺人」
「笑う悪魔」
「死の舞踏(ダンスマカブル)」
「焔の中に歌う」
「葬送行進曲(ヒューネラル・マーチ)」
「法悦クラブ」
「天才兄妹」
「眠り人形」
「向日葵の眼」
「身代りの花嫁」
「水中の宮殿」
「九つの鍵」
野村胡堂といえばもちろん代表作は「銭形平次」。しかし「銭形平次」での知名度が圧倒的すぎるため、逆に他の作品はあまり知られていない。実は平次以外の捕物帳もあるし、時代伝奇小説やホラー系もあったりと、意外とジャンルも幅広い。そして本書のように探偵小説も書いていたのである。
ただ、そっちはどちらかというと少年向きがメインだと思っていたら、これがまたシリーズ探偵もしっかり存在する、ちゃんとした本格探偵小説なのである。読む前はどうしても「銭形平次」のイメージを引っ張っていたので、どうせ人情話っぽい作りなのだろうなと思っていたのだが、どうしてどうして。こちらはきっちりと本格の体を為しており、トリックも理化学的なネタが多いなど、あくまで事件を科学的論理的に解決してゆく。書かれた時代は1928~1935年。さすがにしょっぱい(というか当時としてはアンフェアな)トリックも少なくないのだが、そんな時代に探偵小説プロパーでもない野村胡堂がこれらの作品を書いていたことに驚く。何はなくとも、まずはこの著者の姿勢にしびれるではないか。
もちろん当時の探偵小説につきものの雰囲気の良さも絶品である。大人向けでありながら、「ですます調」を用いているところがまた憎い。野村胡堂がどういう意図で「ですます調」にしたのかは知らないが、これがレトロなムードを醸し出しているのは間違いないところだし、講談調にも通ずるところもあって、文章の流れが実によい。これはグダグダと管理人の説明を聞くより、一度読んでもらえればわかるはず。とにかく読んでて気持ちいいのだ。
シリーズ探偵は警視庁刑事の花房一郎。ただ、物語の進行役は新聞社の社会部次長の千種十次郎、とその部下の早坂勇が務めることが多い。この三人がいってみればレギュラーで、「銭形平次」に喩えるなら花房が平次、早坂が八五郎、千種がその中間的役割を担っている。本書にはノン・シリーズ作品も収録されているが、やはりオススメは花房シリーズであろう。
とりわけ判官三郎という和製ルパンが登場する「古城の真昼」「判官三郎の正体」は実に楽しい。今でいうスピンアウト作品になるだろう予感を残しつつ、残念なことに判官三郎ものはこの二作で終わっているのが残念でならない。
とにかく久々に堪能した一冊。値段は相当なものだがボリュームもあるし、野村胡堂の探偵小説がこれだけ手軽に読める機会はそうそうない。エッセイ等も含めて実にお買い得である。しかも限定1000部の刊行。三度の飯より戦前の探偵小説が好き、という人はぜひお早めに。
最後に収録作。
「呪の金剛石(ダイヤモンド)」
「青い眼鏡」
「死の予告」
「女記者の役割」
「踊る美人像」
「悪魔の顔」
「流行作家の死」
「古銭の謎」
「悪人の娘」
「古城の真昼」
「判官三郎の正体」
「音波の殺人」
「笑う悪魔」
「死の舞踏(ダンスマカブル)」
「焔の中に歌う」
「葬送行進曲(ヒューネラル・マーチ)」
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「天才兄妹」
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