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 山村正夫/編の『釣りミステリーベスト集成』を読む。
 自慢ではないが、釣りは小学生のとき以来ン十年やったことがない。要は釣りそのものに対してまったく興味がないわけだが、本書はそういった人間にも楽しめる内容である。
 まあ釣りに限らず、何らかの結果が目に見える行為というのは、他者と比較や競争ができるということであり、その内容にかかわらず遊びとして成立しやすい。ましてやアウトドアに絡む行為は、自然との闘い、自分との闘いという側面も強く、求道的な部分や精神性も高い。星の数ほどある娯楽のなかでも、とりわけ多様な楽しみが見いだせるのが「釣り」というわけで、比較的小説のテーマとしても取りあげられやすい所以であろう。
 能書きはさておき。収録作は以下のとおり。

西村京太郎「幻の魚」
皆川博子「海の耀き」
森村誠一「溯死水系」
幾瀬勝彬「幻の魚殺人事件」
西村寿行「海の修羅王」
島田一男「海猫は語らない」
西尾正「海蛇」
山村正夫「指」
西東登「名人死す」
香山滋「怪魚シーラカンス」
久生十蘭「鎌いたち」

 正直なところ、ミステリーとしてはやや弱いけれども、娯楽小説としては十分に楽しめる水準である。確かにミステリー、特に謎解きという観点から見るといまひとつなのだが、そもそも本格自体があまり採られていないわけで、逆にいうとなかなかバラエティに富んだアンソロジーということができる。
 特に気に入ったものとしては、まず皆川博子の「海の耀き」。悪女ものといっていいのか、三角関係の男女が船上で繰り広げるマリン・フィッシングと愛憎のドラマが秀逸である。
 二十キロはあろうかという巨大な石鯛と人間の闘いを描く「海の修羅王」は、さすが寿行先生ならではの迫力。同じ闘いでも幻想的な味つけの西尾正「海蛇」もまたよし。
 そして本書中でも数少ないトリッキーな作品としては、意外にも島田一男の「海猫は語らない」がピカイチ。登場人物たちの個性を際だたせて、見事なオチをつけてくれる。
 香山滋の「怪魚シーラカンス」はさすがにこの中では異色中の異色作。こればかりは釣りミステリーといっていいものかどうか判断に迷うところ。でも久々に読んだ香山滋の短編は実に楽しい。シーラカンス・ネタでロマンスを書き上げるなんざ、なかなか他の作家にはできない芸当である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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