- Date: Sat 17 11 2007
- Category: 海外作家 ウエイド(ヘンリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ヘンリー・ウエイド『議会に死体』(原書房)
ヘンリー・ウエイドの『議会に死体』を読む。
とある地方都市の市庁舎を激震が走る。こともあろうに議場で殺人事件が発生してしまったのだ。被害者は直前の議会で徹底的に市政を批判し、不正を追及すると宣言した議員。攻撃的な性格のため敵は多かったが、殺害時間に市庁舎を出入りした人間は限られている。指揮を執ることになった新任の警察本部長は、地方政治故の特殊な状況や人間関係に頭を悩ませ、スコトランドヤードに助けを要請する……。
(もしかしたら今回ちょっとネタバレっぽいところがあるかもしれません)
『塩沢地の霧』以来、久々のウエイドである。ウエイド作品は出来不出来のムラがなく、どれも安心して読めるのが大きなアドヴァンテージ。
だが本作は議会政治を扱っていることから、ちょっと不安もあったのだが(個人的に政界や財界を舞台にした本格が好きではないのだ、スパイ小説とか謀略小説とかならいいんだけど。なんか変?)、もうまったくの杞憂であった。正に英国の本格探偵小説を代表する作風であり、地味ではあるが、いつもどおり豊かで上質の味わいが楽しめる。
それを最大に感じられるのが、やはり語りの巧さ、描写の巧さであろう。持って生まれた才能か、とにかく他のミステリ作家が苦労しているハードルをやすやすとクリアしており、だからこそ地味な展開であろうとも読者を退屈させることなく引き込んでゆく。
例えば本作では、容疑者はごく限られた人物に絞られ、状況もかなり限定されている。ちょっとスレたマニアなら、ある程度は結果を想定できてしまうのだが、それでも興味深く読めるのは捜査側、容疑者側ともに際だった個性(だが突飛ではない)を描いているから。しかもその個性がただの味つけに終わっていないのが、また巧いところなのだ。こういう性格の人物だからこそ、こういう結果に至るのだという、この説得力。それは終盤の謎解きでより鮮明になり、この一見ゆったりした物語が、実は隙のない構成であることが理解できるわけである。
また、動機にしても名誉、金銭、愛憎など、容疑者によってさまざまであり、各人の人生をおぼろげにあぶり出してみせる手際が鮮やかだ。
もちろんただ小説が上手いというわけではなく、本格としての企みも十分に備えており、このバランスの良さなくしてはウエイドは語れない。
再三、地味といいながらも、本作では現場の見取り図やアリバイ表、ダイイング・メッセージなどの本格コードをきっちり盛り込んだうえ、犯人のみならず真の探偵役は誰かという結構まで備えるサービスぶり。そして、ラスト1行でのサプライズ。逆に言うと、ここまでやっても地味だと言われるウエイドもいい迷惑だ(笑)。まあだからこそウエイドの作品は今でも評価されるのだろう。
各出版社には、ぜひ今後とも翻訳を続けてもらいたいものである。
とある地方都市の市庁舎を激震が走る。こともあろうに議場で殺人事件が発生してしまったのだ。被害者は直前の議会で徹底的に市政を批判し、不正を追及すると宣言した議員。攻撃的な性格のため敵は多かったが、殺害時間に市庁舎を出入りした人間は限られている。指揮を執ることになった新任の警察本部長は、地方政治故の特殊な状況や人間関係に頭を悩ませ、スコトランドヤードに助けを要請する……。
(もしかしたら今回ちょっとネタバレっぽいところがあるかもしれません)
『塩沢地の霧』以来、久々のウエイドである。ウエイド作品は出来不出来のムラがなく、どれも安心して読めるのが大きなアドヴァンテージ。
だが本作は議会政治を扱っていることから、ちょっと不安もあったのだが(個人的に政界や財界を舞台にした本格が好きではないのだ、スパイ小説とか謀略小説とかならいいんだけど。なんか変?)、もうまったくの杞憂であった。正に英国の本格探偵小説を代表する作風であり、地味ではあるが、いつもどおり豊かで上質の味わいが楽しめる。
それを最大に感じられるのが、やはり語りの巧さ、描写の巧さであろう。持って生まれた才能か、とにかく他のミステリ作家が苦労しているハードルをやすやすとクリアしており、だからこそ地味な展開であろうとも読者を退屈させることなく引き込んでゆく。
例えば本作では、容疑者はごく限られた人物に絞られ、状況もかなり限定されている。ちょっとスレたマニアなら、ある程度は結果を想定できてしまうのだが、それでも興味深く読めるのは捜査側、容疑者側ともに際だった個性(だが突飛ではない)を描いているから。しかもその個性がただの味つけに終わっていないのが、また巧いところなのだ。こういう性格の人物だからこそ、こういう結果に至るのだという、この説得力。それは終盤の謎解きでより鮮明になり、この一見ゆったりした物語が、実は隙のない構成であることが理解できるわけである。
また、動機にしても名誉、金銭、愛憎など、容疑者によってさまざまであり、各人の人生をおぼろげにあぶり出してみせる手際が鮮やかだ。
もちろんただ小説が上手いというわけではなく、本格としての企みも十分に備えており、このバランスの良さなくしてはウエイドは語れない。
再三、地味といいながらも、本作では現場の見取り図やアリバイ表、ダイイング・メッセージなどの本格コードをきっちり盛り込んだうえ、犯人のみならず真の探偵役は誰かという結構まで備えるサービスぶり。そして、ラスト1行でのサプライズ。逆に言うと、ここまでやっても地味だと言われるウエイドもいい迷惑だ(笑)。まあだからこそウエイドの作品は今でも評価されるのだろう。
各出版社には、ぜひ今後とも翻訳を続けてもらいたいものである。
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いえいえ、こちらこそ色々と無理をいって申し訳ないです。陰ながら応援しておりますので、ぜひ今後ともよろしくです。