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クリフォード・ナイト『ミステリ講座の殺人』(原書房)
ちょっと遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
本年も皆様が素晴らしい探偵小説三昧の日々を送れますようお祈り申し上げます。
正月は初詣に出かけたぐらいで、あとは典型的な寝正月。こういう緊張感のない時間を過ごすことが最近少なかったので、精神的にはずいぶん疲れがとれた気がする。何をしていたのか自分でもよく思い出せないが、酒だけはけっこう飲んでいたなぁ(苦笑)。
今年一発目の読了本は、原書房のヴィンテージ・ミステリから『ミステリ講座の殺人』。
作者は我が国ではほぼ無名のクリフォード・ナイト。日本はもちろん本国でもほとんど忘れられた作家だが、当時はミステリ・コンテストで華々しくデビューした後、アメリカの黄金時代を支えたバイプレイヤー的存在だったらしい。本書は著者の長篇第二作目にあたる。

著名なミステリ作家イーディス・メアリー・マーカー。彼女は自分の屋敷に人々を集め、「ミステリ講座」を催していた。しかし、ある夜のこと。「天の声」と名付けられた鐘の音でたたき起こされた人々が見たものは、短剣によって殺害された老女の姿。彼女はイーディスの秘書であると同時に、イーディスのよき相談役でもあった。残された人々は頼りない保安官の言動に業を煮やし、自ら真相を探ろうとするが……。
設定がミステリ・マニアの興味をいやがうえにもそそり、おまけにタイトルがメタミステリっぽいものを連想させる。しかも巻末には「手がかり索引」まで付けられているので、これは著者が相当なマニアであることを想像させるのだが、そういう場合は逆に要注意。変なこだわりばかりが先に立って、小説としてはダメダメなことが多いのはよくある話。
本書の場合、結果からいうと、やはり出来はいまひとつ。
ただ、問題なのは、マニアがこだわりすぎて自滅したというより、試みが中途半端で物足りないということだ。登場人物たちの大半がミステリ作家や志望者であることを考えると、もっともっとミステリ論などが戦わされてもいいはずだし、技法上の話があってもいいはずだが、基本的には少ないし、あってもそれほどくすぐられるレベルのものではない。加えて設定に比べると事件もおとなしく、意識的なのかどうか知らないが妙にさらっと流している感じが気になった。
これはあくまで個人的な考えだが、少なくともミステリ作家がミステリ作家をネタにしてミステリを書こうというのなら、相応の覚悟や自身をもって大見得をきってほしいものだ。本書は決してつまらないというほどの作品ではないのだが、やはり企画倒れという言葉がぴったりの一冊といえるだろう。
本年も皆様が素晴らしい探偵小説三昧の日々を送れますようお祈り申し上げます。
正月は初詣に出かけたぐらいで、あとは典型的な寝正月。こういう緊張感のない時間を過ごすことが最近少なかったので、精神的にはずいぶん疲れがとれた気がする。何をしていたのか自分でもよく思い出せないが、酒だけはけっこう飲んでいたなぁ(苦笑)。
今年一発目の読了本は、原書房のヴィンテージ・ミステリから『ミステリ講座の殺人』。
作者は我が国ではほぼ無名のクリフォード・ナイト。日本はもちろん本国でもほとんど忘れられた作家だが、当時はミステリ・コンテストで華々しくデビューした後、アメリカの黄金時代を支えたバイプレイヤー的存在だったらしい。本書は著者の長篇第二作目にあたる。

著名なミステリ作家イーディス・メアリー・マーカー。彼女は自分の屋敷に人々を集め、「ミステリ講座」を催していた。しかし、ある夜のこと。「天の声」と名付けられた鐘の音でたたき起こされた人々が見たものは、短剣によって殺害された老女の姿。彼女はイーディスの秘書であると同時に、イーディスのよき相談役でもあった。残された人々は頼りない保安官の言動に業を煮やし、自ら真相を探ろうとするが……。
設定がミステリ・マニアの興味をいやがうえにもそそり、おまけにタイトルがメタミステリっぽいものを連想させる。しかも巻末には「手がかり索引」まで付けられているので、これは著者が相当なマニアであることを想像させるのだが、そういう場合は逆に要注意。変なこだわりばかりが先に立って、小説としてはダメダメなことが多いのはよくある話。
本書の場合、結果からいうと、やはり出来はいまひとつ。
ただ、問題なのは、マニアがこだわりすぎて自滅したというより、試みが中途半端で物足りないということだ。登場人物たちの大半がミステリ作家や志望者であることを考えると、もっともっとミステリ論などが戦わされてもいいはずだし、技法上の話があってもいいはずだが、基本的には少ないし、あってもそれほどくすぐられるレベルのものではない。加えて設定に比べると事件もおとなしく、意識的なのかどうか知らないが妙にさらっと流している感じが気になった。
これはあくまで個人的な考えだが、少なくともミステリ作家がミステリ作家をネタにしてミステリを書こうというのなら、相応の覚悟や自身をもって大見得をきってほしいものだ。本書は決してつまらないというほどの作品ではないのだが、やはり企画倒れという言葉がぴったりの一冊といえるだろう。
Comments
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あけましておめでとうございます。
ことしもよろしくお願いします。
創作や読書のグループでの殺人を扱ったものは、
うまくいくと、おもしろいだろうと思いますね。
日本の作品にもありましたっけ?
Posted at 16:22 on 01 06, 2008 by kenn
Edit
先に拙ブログでご挨拶をいただいてしまいました;;ありがとうございます!今年も楽しみに拝見させていただきます!
年始のいっぱつが企画倒れの一冊…ということでしたが、sugataさんのお眼鏡にかなう一冊、というのがよほどすごいモノなのではないか、と、最近考えたりします。
というわけで、sugataさん的ベストのタイトルは皆、一読する価値があるな、と、メモっております。
海外モノはなかなか手が出せませんが、頑張りまーす(頑張ることではないのでは…)。
今年もどうぞよろしくお願いいたします!
Posted at 12:56 on 01 06, 2008 by まゆき
kazuouさん
こちらこそ今年もよろしくお願いします。
『ミステリ講座の殺人』ですが、なんせテーマがテーマですから、著者も当然力を入れていたと思うのですが、その割には薄口というか……。力が入りすぎて空回りするとか、こだわりすぎるのなら、まだわかるんですけれどね。
まゆきさん
こちらこそ今年もよろしくお願いします。
>というわけで、sugataさん的ベストのタイトルは皆、一読する価値があるな、と、メモっております。
それは買いかぶりすぎです。私はどちらかというと、かなり評価が甘い方で(笑)。そもそも古い国産探偵小説なんて、今の基準で読むときついのばかりですからね。そんなものをありがたがって読む人間ですから、あまりあてにはしないでください(^_^;)
Kennさん
おめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします。
>日本の作品にもありましたっけ?
最近の国産ミステリにはけっこうありますよね。有栖川有栖とか石崎幸二とか森博嗣にもありませんでしたっけ? 古いところでは山村正夫も書いていたかも。ただ、設定や語りがどうしても子供っぽくなってしまうというか、生理的に受けつけないんですよね。『ミステリ講座の殺人』はそういう意味ではよかったのですが、肝心の部分が……(苦笑)。
Posted at 19:23 on 01 06, 2008 by sugata