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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


水谷準『殺人狂想曲』(春陽文庫)

 ちくま文庫の短編集に続いて水谷準を読む。ものは春陽文庫の『殺人狂想曲』。
 収録作は「殺人狂想曲」「闇に呼ぶ声」「瀕死の白鳥」の三作だが、ちくま文庫との恐ろしいほどの作風の違いに愕然としてしまった。犯罪心理やロマンティックな幻想小説とはほど遠く、どれもバリバリの通俗サスペンス。その場その場が面白ければそれでよしという感じで、強引なストーリー展開にはとにかく恐れ入った。あの『新青年』の名編集長として活躍した水谷準が、こういうものも書いていたのだという新鮮な感動(笑)。探偵小説好きなら、だまされたと思って一度は読んでおきたい。以下、各作品の感想。

 「殺人狂想曲」はファントマものを翻案したものらしいが、これが珍品。ファントマを飜倒馬などと充てるのはまだよいとしても(いや、よくはないんだけど)、話を盛り上げるだけ盛り上げて、作者がひとまずペンをおくことにするとかいって、本当に途中で止めちゃうのである。いいのか、これで? ぜんっぜん話が終わってないんだけど。
 「闇に呼ぶ声」もすごい。結婚の約束をした恋人を待たせ、主人公は東京に出稼ぎに出るのだが、途中で悪人に有り金を奪われたばかりか、頭を負傷して記憶喪失になる。世をはかなんだ主人公は、たまたま別の悪漢に助けられ、命じられるままに殺し屋として生きてゆく。果てはその悪漢に代わって組織のボスとなったり、世の中への復讐を思い立ったり……という大河ピカレスクロマンなのだが、作者は途中経過を思い切りすぎるぐらい思い切って省略し、強烈なエピソードで話をつないでゆく。しかも100ページあまりでこれをまとめてしまう力業。そしてこちらもラストは強烈。
 「瀕死の白鳥」も一気呵成の怒濤の展開で、先を読むことはほぼ不可能。でも物語としては本書のなかで一番まとまっている。ただし、「殺人狂想曲」「闇に呼ぶ声」を読んだ後ではややインパクトに欠ける。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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