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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジョン・コリア『ナツメグの味』(河出書房新社)

 ナツメグの味

 ジョン・コリアの『ナツメグの味』を読む。ジョン・コリアといえばいわゆる異色作家に分類される作家であり、リニューアルした早川書房の異色作家短編集『炎のなかの絵』でも、その魅力にとりつかれた人は多いはず。
 ただ、コリアの作品は好き嫌いが出るという話も聞く。他の異色作家とコリアを分ける特徴としては、ファンタジー色+ブラックな笑いであるため、後味の悪さを伴うことが多いのも確か。嫌われる原因はその辺りだろう。しかしながら多少の毒を消化するのは読者の務めであろうし、これぐらいでコリアを避けるのはもったいない話だ。

 本書は、そんなコリアの作品をまとめた充実の一冊であるわけだが、今回ちょっと面白いなと思ったのは、妙なオフビート感を備えた作品がいくつかあることだった。
 奇妙な味の作品というのは、だいたいが筋を予測しにくいものだが、それでも同タイプの作品を読むと、ある程度は先が見えてしまうことも少なくない。だがコリアの場合、物語の展開がまったく予想外に転ぶことがあり、そういう作品はオチの出来にかかわらず、なかなか読み応えがあった。
 例えば表題作の「ナツメグの味」にしてもリードの言動が怪しくなるところまでは予想できるのだが、最後の2ページの流れはなかなか読みにくい。「特別配達」は比較的ラストを予測しやすいものの、その過程はまさに奇想と呼ぶに相応しい。「宵待草」「悪魔に憑かれたアンジェラ」はそのオチそのものがシュールである。
 派手な仕掛けは他の作家に譲るとして、コリアならではのひねくれたジョークを堪能したい。そんな一冊である。
 最後に収録作。

The Touch of Nutmeg Makes It「ナツメグの味」
Special Delivery「特別配達」
Another American Tragedy「異説アメリカの悲劇」
Witch's Money「魔女の金」
Bird of Prey「猛禽」
Thus I Refute Beelzy「だから、ビールジーなんていないんだ」
Evening Primrose「宵待草」
Night! Youth! Paris! and the Moon!「夜だ!青春だ!パリだ!見ろ、月も出てる!」
Are You too Late or Was I too Early?「遅すぎた来訪」
The Lady on the Grey「葦毛の馬の美女」
The Bottle Party「壜詰めパーティ」
Rope Enough「頼みの綱」
Possession of Angela Bradshaw「悪魔に憑かれたアンジェラ」
Halfway to Hell「地獄行き途中下車」
The Devil, George, and Rosie「魔王とジョージとロージー」
Softly Walks the Beetle「ひめやかに甲虫は歩む」
Man Overboard「船から落ちた男」

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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