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 第五回(昭和三十四年)の江戸川乱歩賞受賞作、新章文子の『危険な関係』を読んでみた。
 新章文子は当時としては珍しい女流ミステリ作家である。また、ミステリ以前に童話の著書などもあることから、何となく仁木悦子を連想させる(ちなみに仁木悦子はその二年前に乱歩賞を受賞)。だが仁木悦子のカラッとした明るい作風とはまったく異なり、本日読んだ新章文子のそれは、実に日本的な湿っぽさを含んだものであった。

 危険な関係

 東京で一人暮らしを送る高行は京都の資産家の息子だが、あるとき実家から送られた薬に混入していた砒素によって危うく命を落としそうになる。表向きは自殺と報じられたその事件の直後、高行の元へある女性から手紙が届く。そこには高行の出生の秘密がしたためられており、それをきっかけに高行は自分の父に対して不信感を抱き、ついには父の葬式にすら欠席してしまう。その高行が京都に帰ってくるところから物語は大きく動き始める……。

 一応、高行をベースにざっと導入部を紹介してみたが、実は彼が主人公というわけではない。群像劇とまではいかないものの、本作ではその他にも実に多彩でクセのある人物が登場し、さまざまな「危険な関係」を形作ってゆく。
 野心だけをもって京都にやってきた打算的な青年、その青年を追って京都にきた水商売の女、高行に遺産をすべて奪われることに我慢がならない激情家の妹、今は亡き父の恩讐に囚われるバーのマダム、資産家の娘に想いを寄せながらもその立場から厳しく己を律するストイックな運転手……。
 彼らのそれぞれに物語があり、やがて見ず知らずの彼らが互いに関係を深めるにつれ、徐々に緊張感も高まってゆく。まさに京都の梅雨を思わせるような、このネットリとした人間ドラマが本作の肝であり、読みどころだ。表面的なストーリーだけとってみれば、一歩間違えると昼メロや二時間ドラマに陥りそうなところだが、描写が確かなうえに独特の緊張感があるから安っぽい感じはまったくない。
 だが残念なことに、謎とその解決という部分が物足りない。極端なことをいえば別に謎解きものにしなくても、このままサスペンスのみで突っ走った方がよかったのではないかと思えるほどだ。現代での知名度がいまひとつだったり、ベストテンなどに挙がることが少ないのも、おそらくこの弱点ゆえではないだろうか。
 とはいえ決して退屈するような作品ではないし、むしろ総合力ではなかなかのものである。まあ一作で断言するのもあれなので、もう少し他の作品も読んでみることにしよう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



















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