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新章文子『女の顔』(講談社文庫)
『危険な関係』に続いて新章文子をもういっちょ。『女の顔』読了。

目を見張るほどの美貌の持ち主だが、演技の才能には欠ける女優、夏川薔子。婚約者でもある新進監督のもとで新作の撮影を目前にしていたが、そのプレッシャーに耐えられず、ついには誰にも告げずに京都へ旅に出てしまう。やがてその地で医学生と関係を持った薔子。だが、東京に戻った彼女を待っていたのは母の事故死であった。しかし、その死には不審な点があり、薔子がその原因を調べるうちに、母の意外な過去、薔子を取り巻く人間たちの思惑が明らかになってゆく……。
デビュー作の『危険な関係』に比べれば、より華やかな世界、より少ない登場人物に絞っての設定だが、そのテーマやテイストはほぼ変わるところはない。主人公は一応、薔子といえるだろうが、作者は『危険な関係』と同様、複数の人物の視点で物語を進め、それぞれの思惑や心理を実に丹念に語ってゆく。それは取りも直さず、人間そのものの愚かさを語ることでもある。
『危険な関係』では登場人物の設定のせいであまり意識しなかったのだが、このテイストはフランス・ミステリのそれに近い。徐々にサスペンスを高める手法、ねちっこい心理描写、腰砕けの犯罪(笑)などなど。たった二作で断言するのもアレだが、これこそが新章文子の持ち味であり、好き嫌いの分かれるところなのであろう。
一応、個人的にこの方向性は全然OKである。ただ、惜しむらくはもう少しサスペンスを高めるか、サプライズの効果を強くしてほしかった。本書を普通小説としてみればさほど大した疵ではなかろう。しかし、ミステリとしてみるなら、それはやはり大きな弱点と言わざるを得ず、どうしても食い足りなさが残るのである。

目を見張るほどの美貌の持ち主だが、演技の才能には欠ける女優、夏川薔子。婚約者でもある新進監督のもとで新作の撮影を目前にしていたが、そのプレッシャーに耐えられず、ついには誰にも告げずに京都へ旅に出てしまう。やがてその地で医学生と関係を持った薔子。だが、東京に戻った彼女を待っていたのは母の事故死であった。しかし、その死には不審な点があり、薔子がその原因を調べるうちに、母の意外な過去、薔子を取り巻く人間たちの思惑が明らかになってゆく……。
デビュー作の『危険な関係』に比べれば、より華やかな世界、より少ない登場人物に絞っての設定だが、そのテーマやテイストはほぼ変わるところはない。主人公は一応、薔子といえるだろうが、作者は『危険な関係』と同様、複数の人物の視点で物語を進め、それぞれの思惑や心理を実に丹念に語ってゆく。それは取りも直さず、人間そのものの愚かさを語ることでもある。
『危険な関係』では登場人物の設定のせいであまり意識しなかったのだが、このテイストはフランス・ミステリのそれに近い。徐々にサスペンスを高める手法、ねちっこい心理描写、腰砕けの犯罪(笑)などなど。たった二作で断言するのもアレだが、これこそが新章文子の持ち味であり、好き嫌いの分かれるところなのであろう。
一応、個人的にこの方向性は全然OKである。ただ、惜しむらくはもう少しサスペンスを高めるか、サプライズの効果を強くしてほしかった。本書を普通小説としてみればさほど大した疵ではなかろう。しかし、ミステリとしてみるなら、それはやはり大きな弱点と言わざるを得ず、どうしても食い足りなさが残るのである。
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