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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

サン=テグジュペリ『星の王子さま』(岩波書店)

 あまりにもメジャーすぎて、ついつい何十年も読まずにきてしまった本というのがあるものだが、管理人にはサン=テグジュペリの『星の王子さま』がその一冊。
 ストーリーから登場人物、エピソードに至るまで、本やテレビなどで知識だけはそれなりにあったのだが、お恥ずかしいことに読むのはこれが初めて。果たしていい年をしたおっさんが今さらこの名作中の名作を読んで感動を得られるのか、あるいは他に得るものがあるのか?

 星の王子さま

 いやあ、素晴らしい。そして驚いた。冗談抜きで、これは本当に読んでおかなければならない一冊である。
 砂漠に不時着した飛行士が、とある星からやってきた王子さまから聞く数々の体験談。とにかく表面的にはファンタジーであるし、寓話的であることぐらいは十分想定していたが、これはもう普通に哲学ではないか。そのひとつひとつのエピソードはサラッとした味わいながら、非常に普遍的で深遠なテーマーー愛や命といったーーを含んでおり、それこそいくらでも深読みが可能である。また、戦争の真っ只中を生きた作者ゆえに、ただ愛とか命とかだけではなく、戦争や政治といった要素を抜きに語ることもできないだろう。
 それゆえに、ファンタジー小説あるいは児童小説といった体裁の『星の王子さま』ではあるが、本書を読まなければならないのはまず大人なのである。説教臭は若干あるのだが、ここまで示唆に富むメッセージを一冊に詰め込み、人間とその営みについて考えさせてくれる本など、そうそうあるものではない。
 食わず嫌いの人、今まで縁がなかった人も、ぜひお試しを。


Comments
 
おおお、Kennさんも読んでおられましたか。

>3人とも「だ・である」調で、あきらかに大人にむけて
>訳されておられるようです。

そうなんですよねぇ、
『星の王子さま』が大人向けの小説であるということも、
今では既に定着していますから、文体や言葉の選び方も大事なんですよね。
しかも単に翻訳の違いというだけではなく、
解釈の仕方も異なるということですから、
これは確かに読む比べたくはなりますね。
Kennさんも読み比べが終わったら、ぜひ感想を聞かせてください。
<自分がやれという話もありますが(爆)
 
有名すぎるけど読んでないってのは、
けっこうありますね。
『星の王子さま』は、むかし読んだときには
とくに印象もなかったんですが、
何年か前に読み直したら、たしかにおもしろかったです。

新訳がどかっとでたときには、みんな見比べて、
やはり野崎、池澤、倉橋の3氏のを買いました。
池澤さんの場合は、翻訳がどうこうというより、
ファンだからなんですけどね。

前書きだけで判断したんですが、
ぼくは倉橋さんのが気に入りました。

ほとんどの人が、「この本を、ある大人にささげることを、
子供たちには許してもらいたい」といった感じにしているのに、
倉橋さんは、「子供たちには悪いけれども」ときました。
うまいなあと思いました。
なぜかくやしくなりましたね。

3人とも「だ・である」調で、あきらかに大人にむけて
訳されておられるようです。
翻訳者にとっては、いやかもしれないけど、
いくつもの訳をくらべられるのはありがたいです。

買っただけで、まだ読んでないんですよ、じつは。
そろそろ読んでみようかな。
 G&Sさん
お、G&Sさんもまだでしたか。
訳はけっこう悩んだんですよね。内藤訳は名訳なれど必ずしも忠実な訳ではないということも聞いていたので、野崎訳のほか池澤訳や倉橋訳も候補でした。
でもまあ、言ってみれば内藤訳は『三国志』でいえば吉川三国志ですからね。まずはこれかな、と。ま、結局は家に最初からあったことが一番の理由なんですが(苦笑)。
でも、解釈の多様さや深さを思うと、そのうちできるだけ忠実な訳でも読んでみたいですね。
 
シンクロニシティですねえ、実は私も未読です。先日BOOKOFFで『ちいさな王子』(原題はこれ)と題された例の光文社の新訳見つけてこれを機会にと買ってきたばかりです。早めに読んでみよう。汚れきったこの身も心も洗われるでしょうか?(笑)

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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