fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


バロネス・オルツィ『紅はこべ』(創元推理文庫)

 バロネス・オルツィといえば、ミステリファンにとっては「隅の老人」もしくは「レディ・モリー」の産みの親、という認識が一般的だろうけれども、どうやら世間的には歴史ロマン『紅はこべ』の作者の方がとおりがいいようだ。

 この歴史ロマンというやつがなかなか曲者で、字面どおりに受け取れば、史実を基にした小説ということになるのだが、ヨーロッパの人たちにとっては単なる歴史小説ではない。それはあくまで歴史ロマンという独立したジャンルであり、絶対的な娯楽である。
 それは作家にとっても同様らしく、単に小説家になりたいのではなく、歴史小説で名を成したいという者が数多いたようだ。あのコナン・ドイルも正にその一人。そしてオルツィも然り。
 オルツィの小説で最初に人気を集めたのは「隅の老人」だが、実はもともと書いていた歴史ロマンがまったく売れなかったらしい。で、「隅の老人」で作家として成功した後に、ようやくこの『紅はこべ』が陽の目を見たというのだ。

 話を元にもどすと、成功後の『紅はこべ』は歴史ロマンの定番として認知されるまでになり、続編も十作以上書かれ、舞台や映画化も一度や二度ではない。最近でも1997年にブロードウェイでミュージカルとなり、1999~2000年にはイギリスでテレビ化され、驚いたことに日本でもNHKで放送されていたという。さらに仰天したのは、なんと今年、宝塚でも公演予定があるとのこと。
 ミステリ作家として今までバロネス・オルツィを読んできた者にとって、これはある意味ショック。時代はいつの間にか『紅はこべ』だったのだ(笑)。

 紅はこべ

 どうでもいい蘊蓄ばかりになってしまったが、そろそろ内容の話でも。
 時は一八七九年。ヨーロッパ全土を動乱に巻き込んだフランス革命が勃発した。民衆の不満が爆発し、共和政府によってフランスの貴族は貴族であるというだけで捕らえられ処刑されていく。そんな中、囚われの貴族を次々と救ってはイギリスに亡命させる、あるイギリス人の秘密結社が出現した。その名も「紅はこべ」。共和政府は「紅はこべ」の正体を探べく、革命政府全権大使ショーヴランをイギリスに送ったが……。

 予定調和的ではあるが、この手の物語はそれが大前提なので、いうだけ野暮か。とにかくストーリーはさすがに大したもので、冒険に愛と友情をこってりとミックスし、ぐいぐいと引っ張っていく。もうど真ん中である。「紅はこべ」の首領の正体は誰かというミステリー的な趣向(バレバレではあるが)も楽しい。
 芝居がかった言動は今読むと引いてしまうところもないではないが、逆にこれがあるからこその歴史ロマンであり、あまりスマートに描かれたり、合理的な考え方の連中ばかりが登場しては、あえて読む意味もなかろう。動乱の時代とはいいながら、紳士はあくまで紳士らしく、淑女は淑女らしく、庶民が憧れる貴族の夢の物語でなければならないのだ。
 ということは、これってもしかして歴史ロマンというより、ハーレクインロマンスといった方が近いのか。史実を題材にしてはいるが、それはやはり味つけ以上のものではないし、基本的にヒロインを中心に物語が回っていることや、恋愛シーンの多さなどを踏まえても、これはやはりロマンスメイン。なるほど、宝塚でミュージカルになるのも頷ける話だ。
 しかしながら、個人的には最近この手の小説を読んでいなかったので、予想以上に楽しめたのは確か。テレビ版もちょっと気になるぞ(笑)。

関連記事

Comments

Edit

ポール・ブリッツさん

>短編集三冊を、日に三編ずつ、一冊5日間で読んだと思うと普通なような(^_^;)

いやいや、計算上はそうでも、あれだけのボリュームを一定のペースで読むのはなかなか。長篇ならまだ何とかなると思いますが、短篇集は途中でだれるときもありますからね。
何よりあれを持ち運んで読むというのが偉いです(^_^;)

Posted at 00:52 on 03 14, 2014  by sugata

Edit

短編集三冊を、日に三編ずつ、一冊5日間で読んだと思うと普通なような(^_^;)

あのハードカバーを毎日病院へかついでいって待ち合いのヒマな時間にむさぼるように読んだであります。

家へ帰ってもまた読んで。

そのうちに、「隅の老人」の正体は、実はイヤというほど登場する辣腕弁護士サー・アーサー・イングルウッドだった、という説を考えついてパロディ小説を書こうとしましたが、どうやっても無理はあるし面白い作品になりそうもないし、であきらめました。

世の中うまくいかんもんです(^_^;)

Posted at 16:45 on 03 13, 2014  by ポール・ブリッツ

Edit

ポール・ブリッツさん

え?『隅の老人』、もう読んじゃったんですか。そりゃ早い。あれ読み切った人って、もしかするとまだ10人もいないんじゃないですかね(笑)。

それはそうと確かに『紅はこべ』は一定の需要がありそうな気がします。それこそ翻訳も含めてラノベ風な展開をすれば、意外に人気爆発するかお。

Posted at 00:16 on 03 13, 2014  by sugata

Edit

「隅の老人」を完読しました。

だからではないですが、

むしょうに「紅はこべ」が読みたいです。どきどきしながら昔読んだんですが手放してしまって。

どこか全巻訳出してくれないかなあ。「ダルタニヤン物語」を全巻訳出した講談社文庫さんとか……。ムリか(^^;)

Posted at 16:15 on 03 12, 2014  by ポール・ブリッツ

Edit

きみやすさん

ううむ、オルツィはやはり『紅はこべ』の方が有名なのでしょうね。
個人的には「隅の老人」の方を遙かに早く知っていたので、かえって『紅はこべ』の方にビックリした口なのですが。
ただ、「隅の老人」は、私も久々に読みたくなりましたよ。


DORNさん

お久しぶりです。
でもブログはしょっちゅう読ませていただいてますけどね。
ちびっ子たちのお相手も大変でしょうが、
よき読書ライフもお楽しみください!

「パリから来た紳士」、全然つまらない話題ではないですよ。
むしろ大歓迎ですので、今後ともよろしく。

Posted at 00:05 on 04 21, 2008  by sugata

Edit

v-22こんにちは!
お久しぶりですv-288

なかなか、寄させてぃただく時間がなくてごめんネ。
そして、なかなか古典推理小説を楽しむ時間もなぃ最近のわたしですv-406

つまんなぃお話かとは、思うのですが・・・
「パリから来た紳士」やっと完読できましたv-221
で・・・^^;
ラストの文で、ビックリv-405
エドガー・アラン・ポオだったんだv-363

また来まぁ~すe-343

Posted at 17:44 on 04 20, 2008  by DORN

Edit

おはようございます。
今回は「紅はこべ」とは渋いですね~。

それにしても・・・
「隅の老人」の作者と同一人物とは知りませんでした。

なんか、どちらも引っ張り出して読みたくなりました。

また、寄らせていただきます。




Posted at 07:55 on 04 20, 2008  by きみやす

« »

10 2023
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー