- Date: Sat 03 05 2008
- Category: 海外作家 フリーマン(オースティン)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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R・オースティン・フリーマン『ペンローズ失踪事件』(長崎出版)
GW真っ只中ではあるが、本日は会社の引っ越しである。もちろん概ねは業者にお任せなので、IT担当や総務はともかく、それほど自分たちでやることはない。とはいえ一応は立ち会いや確認などを行わなければならず、出社してあれやこれや。
ちなみにGWは神保町も静かなのかと思いきや、意外に人出が多いのには驚いた。休んでいる古書店もそこそこあるようだが、こんなときでないと神保町に来れない人も多いからなのか。それとも他に何か見るべきところでもあるのか。神保町で働くようになってもう十年以上になるが、まだまだ謎は多い。

読了本はR・オースティン・フリーマンの『ペンローズ失踪事件』。科学捜査の先鞭をつけたソーンダイク博士ものの一編である。
骨董品のコレクター、ペンローズ氏が行方不明になるという事件が起きた。自動車事故で老婦人をはね、その後に病院から姿を消したらしいことまではわかったが、その後は行方しれず。時を同じくしてペンローズ氏の父親が死亡したことから、遺産の相続問題が発生。果たしてペンローズ失踪の裏には何があったのか? ソーンダイク博士が得意の科学知識を武器に捜査に乗り出すが……。
ソーンダイク博士といえば、数多登場した同時代のホームズのライヴァルとしては、知名度・実力ともにトップクラス。しかしながら邦訳された作品を眺めると、短篇はよいとしても長篇がいまいち。科学捜査を基にした論理的な推理は、本格探偵小説の条件を満たしてはいるものの、魅力的な探偵小説の条件を満たしているとは言い難い。要はトリックやケレンなど、読者をアッと言わせる要素が少ないのが難点なのだ。
本作でも気になるのは当然その点だったのだが……これがまた微妙な作品。
ラストのソーンダイクの謎解きを読んでもわかるとおり、本格としてのツボはきっちりと突いており、なかなか悪くない。また、導入章のペンローズ登場の部分などは、キャラクターの個性も相まって、これから何が起こるのかといった期待を抱かせる魅力をもっている。
その一方でストーリーの単調さ(特に中盤)や仕掛けの地味さはいつもどおり。ホームズのライヴァルとはいえ、本書の発表年は1936年。ヴァン・ダインやクイーン、クリスティなどが既に代表作をいくつも書き上げている黄金時代に突入しており、もう少し何とかできなかったのかとも思うわけである。
結局、オースティン・フリーマンの作品は、常にこの長所と短所のバランスが評価の分かれ目になる気がする。本書の場合はほぼボーダーラインで、正直、いま読むべき必要性はほとんど感じられない。ただし本格の香りはそれなりに濃厚なので、個人的にはまずまず満足しているし、クラシックがとにかく好き、という人であればそれほど失望することもないはず。逆にいうと、クラシックに興味がない人は読んでいても辛かろうな。
なお、最後に翻訳で気になった点をひとつ。登場人物のひとりにミラーというスコットランド・ヤードの警視がいるのだが、これがソーンダイクに向かって「おまえ」呼ばわりするのは違和感バリバリで困った。いくらなんでも警察に何度も協力している関係者に向かって、警視ともあろうものがそんな無礼な口のきき方はしないだろう。訳者はこれが粋な翻訳だとでも思ったかね?
ちなみにGWは神保町も静かなのかと思いきや、意外に人出が多いのには驚いた。休んでいる古書店もそこそこあるようだが、こんなときでないと神保町に来れない人も多いからなのか。それとも他に何か見るべきところでもあるのか。神保町で働くようになってもう十年以上になるが、まだまだ謎は多い。

読了本はR・オースティン・フリーマンの『ペンローズ失踪事件』。科学捜査の先鞭をつけたソーンダイク博士ものの一編である。
骨董品のコレクター、ペンローズ氏が行方不明になるという事件が起きた。自動車事故で老婦人をはね、その後に病院から姿を消したらしいことまではわかったが、その後は行方しれず。時を同じくしてペンローズ氏の父親が死亡したことから、遺産の相続問題が発生。果たしてペンローズ失踪の裏には何があったのか? ソーンダイク博士が得意の科学知識を武器に捜査に乗り出すが……。
ソーンダイク博士といえば、数多登場した同時代のホームズのライヴァルとしては、知名度・実力ともにトップクラス。しかしながら邦訳された作品を眺めると、短篇はよいとしても長篇がいまいち。科学捜査を基にした論理的な推理は、本格探偵小説の条件を満たしてはいるものの、魅力的な探偵小説の条件を満たしているとは言い難い。要はトリックやケレンなど、読者をアッと言わせる要素が少ないのが難点なのだ。
本作でも気になるのは当然その点だったのだが……これがまた微妙な作品。
ラストのソーンダイクの謎解きを読んでもわかるとおり、本格としてのツボはきっちりと突いており、なかなか悪くない。また、導入章のペンローズ登場の部分などは、キャラクターの個性も相まって、これから何が起こるのかといった期待を抱かせる魅力をもっている。
その一方でストーリーの単調さ(特に中盤)や仕掛けの地味さはいつもどおり。ホームズのライヴァルとはいえ、本書の発表年は1936年。ヴァン・ダインやクイーン、クリスティなどが既に代表作をいくつも書き上げている黄金時代に突入しており、もう少し何とかできなかったのかとも思うわけである。
結局、オースティン・フリーマンの作品は、常にこの長所と短所のバランスが評価の分かれ目になる気がする。本書の場合はほぼボーダーラインで、正直、いま読むべき必要性はほとんど感じられない。ただし本格の香りはそれなりに濃厚なので、個人的にはまずまず満足しているし、クラシックがとにかく好き、という人であればそれほど失望することもないはず。逆にいうと、クラシックに興味がない人は読んでいても辛かろうな。
なお、最後に翻訳で気になった点をひとつ。登場人物のひとりにミラーというスコットランド・ヤードの警視がいるのだが、これがソーンダイクに向かって「おまえ」呼ばわりするのは違和感バリバリで困った。いくらなんでも警察に何度も協力している関係者に向かって、警視ともあろうものがそんな無礼な口のきき方はしないだろう。訳者はこれが粋な翻訳だとでも思ったかね?
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ええっ、私ケンカ売られてたんですか(笑)。
ま、これまでのコメント読みかえしてみると、確かに意見は一見違うようにも見えますが、意外と認めるポイント認めないポイントはけっこう似てるんですよね。その振り幅に好みの違いが出てるのかなぁ、という感じでしょうか。オースティン・フリーマンも何だかんだでけっこう褒めているつもりなんですけどね(苦笑)。
とりあえずいろんな意見は当然あって然るべきだし、そういう感想こそ私も聞いてみたいですので、あまりお気遣いなく。