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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ヘイク・タルボット『絞首人の手伝い』(ハヤカワミステリ)

 管理人ばかりではないだろう。野田昌宏、氷室冴子の相次ぐ訃報には実に驚き、そしてショックを受けてしまった。ミステリファンでもお二方の著作に触れた人は多いだろう。ことに残念なのは、二人とも早すぎたということだ。氷室冴子は言うに及ばず野田昌宏だってまだ七十代だから、これから総仕上げ的な仕事にとりかかるイメージだって持っていたかもしれない。今はただご冥福を祈るのみーー合掌。


 読了本はヘイク・タルボットの『絞首人の手伝い』。不可能犯罪+オカルト趣味が見事に結実した『魔の淵』で、一躍その名を知られたタルボットの長篇第一作である(といっても長篇は本書と『魔の淵』の二冊しかないのだが)。

 絞首人の手伝い

 孤島にあるフラント氏の邸宅で始まった晩餐会。だが、その席上でフラント氏と義弟のテスリン卿との間で口論が発生。異変はそのとき起こった。なんとテスリン卿が呪いの言葉を放った直後に、フラント氏が絶命してしまったのだ。しかもフラント氏の死体は死後数時間もたたないうちに腐乱し、泊まり客には水の精霊ウンディーネが襲いかかる。果たしてこの島には何が起こっているのか……?

 個人的には、正直、世間で言われるほど『魔の淵』を評価していないのだが、何が不満なのかというと、広げすぎた大風呂敷のたたみ方がもうひとつ上手くない。それほど雑ではないと思うのだが、見事なまでの背負い投げをくらった、という気持ちにはなれない。導入や設定が魅力的なだけに、かえってトリックや謎解きの小粒さが気になるのである。
 『絞首人の手伝い』もほぼ同様の傾向を持った作品である。だが立て続けに提示される不可能犯罪という状況や、オカルトチックな設定は、本書の方がより挑戦的。種を明かされるとガックリくる部分もあるが、トータルでは本書の勢いを買いたい。

 また、謎解きとは関係ない部分だが、本書で何より興味深かったのは、探偵役ローガンの設定である。当時の本格探偵小説の名探偵たちとは明らかに一線を画すそのキャラクター。冒険小説やピカレスクロマンの主人公といっても通用しそうな行動力。あるいは複雑な過去をもち、悩めるところの多いその人間性。完全なる第三者ではなく、関係者として事件の渦中で苦しむローガンの姿は意外な収穫であり、彼の存在なくしては、この物語はありえない。ある意味、本書の一番の読みどころといってもいいだろう。

 マニアックな作品だから、買う人はどうせ世間の評判など気にせず買うだろうが、一応は書いておく。少なくとも『魔の淵』が気に入った人は本書も読んでおいて損はない。


Comments

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Sphereさん

確かにオカルト風味では、タルボットの方が真面目に取り組んでいる気がして、好感が持てますよね。カーはオカルトで最後まで引っ張ることをせず、すぐに底を割っちゃうところがありますから(笑)。

Posted at 01:14 on 09 09, 2008  by sugata

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読みました。やっぱりこの人のオカルトっぽい謎は、個人的にはカーより好きです。
『魔の淵』は誰が主人公なんだかあやふやなまま進んでいった気がしますが、本作はローガンのキャラが立っているので(解説読むまで『魔の淵』にも出てたって気づかなかった・・)、書き方によってはショボンとしてしまうかもの謎の解明部分もワクワクしながら読めたと思います。読みやすさは『絞首人~』、オカルトな雰囲気作りは『魔の淵』の勝ちでしょうか。
うーん、長編2作だけしかないのは残念です。

Posted at 20:05 on 09 08, 2008  by Sphere

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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