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佐藤春夫『維納の殺人容疑者』(講談社文芸文庫)
佐藤春夫の『維納の殺人容疑者』を読む。探偵小説に理解を示し、自らも探偵小説に手を染めた文豪、佐藤春夫。その彼が書いた異色の法廷ミステリである。
本作は小説ながら犯罪実話風の形をとる。一九二八年七月、維納(ウィーン)郊外で起こった女性殺害事件。その容疑者として裁判にかけられたのは、グスタフ・バウアーという男であった。被告、検事、弁護士、さまざまな証人たちが虚々実々の駆け引きにしのぎを削り、読者はさながら陪審員のごとく成り行きを見守ることになる。

注目すべきはやはり主人公とも言うべき容疑者のグスタフ・バウアー。検察側による数々の追求をあの手この手でかわしてゆくところは、それなりに読み応えがある。屁理屈に過ぎない答弁なども見られるが、これは時代性もあるから多少は割り引くべきだろう。
また、ドラマとしての演出的な要素は余計なものとして、あくまで真実の追究に焦点を絞り、推理と論理を徹底的に押し出した小説という点だけでも、十分に歴史的価値があるといえる。これは佐藤春夫の著作というだけでなく、当時の探偵小説としても非常に珍しいものだ。ただ、解説にあるように、犯罪実話たる本作が逆に人間性の剥奪を表出するという解釈は、ちょっと強引な気がする。
とにかく論理を押し出した法廷ものということで、国産探偵小説史においては実にエポックメーキングな作品でもあるし、とりあえず探偵小説マニアであれば一度は読んでおきたい……と書きたいところなのだが、正直これは辛かった。
最大の泣きどころは、その読みにくさにある。独特のリズムのうえに読点、改行が少なく、おまけに事実関係などもすべて法廷でのやりとりの中で語られるから、とにかく内容を把握しにくい。まあ、こちらの読解力が低いという話もあるんだけれど(笑)。いつもであれば当時の雰囲気が出て好ましい古い語句なども、本作においては煩わしい限りで、できれば超訳で読みたいぐらいだった(笑)。
ただ、古くても涙香あたりはけっこう抵抗なく楽しめるので、やはり語りの形式や扱う事件の地味さといったところで、かなり損をしている気はする。まあ、本書の結構こそが著者の狙いなんだろうし、それを言ったら話しが始まらないとは思うが(苦笑)。
本作は小説ながら犯罪実話風の形をとる。一九二八年七月、維納(ウィーン)郊外で起こった女性殺害事件。その容疑者として裁判にかけられたのは、グスタフ・バウアーという男であった。被告、検事、弁護士、さまざまな証人たちが虚々実々の駆け引きにしのぎを削り、読者はさながら陪審員のごとく成り行きを見守ることになる。

注目すべきはやはり主人公とも言うべき容疑者のグスタフ・バウアー。検察側による数々の追求をあの手この手でかわしてゆくところは、それなりに読み応えがある。屁理屈に過ぎない答弁なども見られるが、これは時代性もあるから多少は割り引くべきだろう。
また、ドラマとしての演出的な要素は余計なものとして、あくまで真実の追究に焦点を絞り、推理と論理を徹底的に押し出した小説という点だけでも、十分に歴史的価値があるといえる。これは佐藤春夫の著作というだけでなく、当時の探偵小説としても非常に珍しいものだ。ただ、解説にあるように、犯罪実話たる本作が逆に人間性の剥奪を表出するという解釈は、ちょっと強引な気がする。
とにかく論理を押し出した法廷ものということで、国産探偵小説史においては実にエポックメーキングな作品でもあるし、とりあえず探偵小説マニアであれば一度は読んでおきたい……と書きたいところなのだが、正直これは辛かった。
最大の泣きどころは、その読みにくさにある。独特のリズムのうえに読点、改行が少なく、おまけに事実関係などもすべて法廷でのやりとりの中で語られるから、とにかく内容を把握しにくい。まあ、こちらの読解力が低いという話もあるんだけれど(笑)。いつもであれば当時の雰囲気が出て好ましい古い語句なども、本作においては煩わしい限りで、できれば超訳で読みたいぐらいだった(笑)。
ただ、古くても涙香あたりはけっこう抵抗なく楽しめるので、やはり語りの形式や扱う事件の地味さといったところで、かなり損をしている気はする。まあ、本書の結構こそが著者の狙いなんだろうし、それを言ったら話しが始まらないとは思うが(苦笑)。
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