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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ポール・ドハティ『教会の悪魔』(ハヤカワミステリ)

 愛すべき悪党ロジャー・シャロット、修道士アセルスタンの両シリーズで知られるポール・ドハティだが、ハヤカワミステリから新たなシリーズ探偵が登場した。その名も国王の密偵、ヒュー・コーベット。邦訳こそ三番目の登場となったわけだが、実はドハティのシリーズ探偵としては第一号であり、本作はそのシリーズ第一作にあたる。
 英国を舞台にした歴史物というところはこれまでのシリーズとも共通しているが、時代的には本作が一番古くて十三世紀。英国史上「最良の王」と言われるエドワード一世が即位している頃であり、ヒュー・コーベットはその国王の勅命を受けて捜査に臨むという役どころだ。

 妹に暴行を働かれ激怒した金匠(今でいう銀行のようなものだが、そのイメージは金貸しに近い)が、相手の男を殺すという事件が起きた。男は司直の手が及ばない教会へ逃げ込んだものの、罪の意識に耐えかねたか自ら首を吊ってしまう。部屋が密室状態だったこともあり、事件はこのまま自殺で終わるかにみえた。だが、実はその背後には政治的事情が絡んでおり、きな臭さを感じた国王は捜査のやり直しをコーベットに命じる……。

 教会の悪魔

 オビの謳い文句に「聖なる教会で起きた密室殺人に挑む!」などと景気のいいキャッチが踊っているものだから、てっきりアセルスタンものと同じく本格だと思っていたら、こりゃハードボイルドじゃないか。
 陰謀と腐臭に包み込まれた文字どおりの卑しい街、ロンドン。その卑しい街を行く騎士は、妻と娘をペストで失い、心に深い傷を持つ主人公ヒュー・コーベットである。希望を失い、ただ惰性で生きているような男が、事件によってさらに翻弄されながらも、ロンドンの恥部を炙り出してゆく。語り口もこれまでの作品の中では最もシリアスで重く、そういう意味ではドハティの筆力・作風の幅広さに素直に感嘆する。
 ただ、残念なのはオビで堂々と謳っている「密室殺人に挑む!」というキャッチである。この密室殺人が実は相当にしょぼく、加えて犯人もかなりの段階で予測がついてしまうため、本格を期待して読むなら止した方が無難だろう。あくまで謎解きはおまけ。ちょっと変わったハードボイルドを読みたい人、歴史謀略ものを読みたい人なら、というところか。
 個人的には、キャラクターや当時のロンドンの描写など、独特の雰囲気に惹かれたのでもう少しつき合うつもり。特に次作は名作との呼び声も高いらしいので、少なくともそれは読んでみたい。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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