ADMIN TITLE LIST
 殺しのパレード

 ローレンス・ブロックの『殺しのパレード』を読む。殺し屋ケラーものの第三作品集。
 ブロックのシリーズの方向性といえば、私立探偵マット・スカダーの陰、泥棒バーニィ・ローデンバーの陽というのが定説だろう。で、この殺し屋ケラーのシリーズは陰でもなく陽でもなく、はたまたその中間というわけでもない。主人公は殺し屋という職業をビジネスとして淡々とこなし、余暇には切手の蒐集にいそしむ、飄々とした性格のケラー。殺し屋という、本来は殺伐としたモチーフを扱いながら一種独特のゆるさを漂わせた、実に奇妙な味わいのシリーズとなっているのである。
 そしてここ数年のブロックの作風を顧みると、ある意味ではこのケラーのシリーズこそが、ブロックの持ち味が最大に発揮されたシリーズということもできる。
 というのも最近のブロックの作品の魅力は、初期のそれとは大きく異なり、既にストーリーや物語性とはかなり乖離したところにある。ブロックの視線の先にあるのは、専ら語り口や主人公たちの生き方である。それは程度の差こそあれスカダーであってもバーニィであっても同様に思えるのだ。

 『殺しのパレード』においては、それがいっそう際だっている。本書は連作短篇ながら、見た目は長篇仕立てをとっている。語られている事件はそれぞれ個別のものであり、ストーリーだけでみればわざわざ長篇っぽくする必要もない。しかしながらその時々のケラーの心情や精神状態は決して独立したものではない。むしろその心の流れを追うためにこそ、このスタイルは必要だったのだろう。とりわけ9.11というアメリカ人にとって忘れることのできない事件の後では。

 なお、そういった点ばかりが強調された辛気くさい小説なのかというと、そんなことは決してないので念のため。エンターテインメントとしても間違いないレベルであり、ちょっと変わったミステリーを読みたい向きには諸手を挙げてオススメする次第である。ただ本作ではケラーが引退をほのめかしており、できれば『殺し屋』『殺しのリスト』と、シリーズの刊行順どおりに読んだ方がいいとは思うけれど。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




| HOME |

Design by mi104c.
Copyright © 2017 探偵小説三昧, All rights reserved.
ネット小説