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山本周五郎『山本周五郎探偵小説全集2シャーロック・ホームズ異聞』(作品社)
『山本周五郎探偵小説全集2シャーロック・ホームズ異聞』を読む。
第一巻は少年探偵・春田龍介の活躍を描いたジュヴナイル集だったが、第二巻ではホームズやルパンなど海外ミステリの影響を受けたと思われる作品を集めたものが中心。ただ、こちらも実は半数がジュヴナイルであり、第一巻と同様かなり破天荒な物語が揃っていそうで、これは期待するしかあるまい(笑)。まずは収録作。
「シャーロック・ホームズ」
「猫眼石殺人事件」
「怪人呉博士」
「出来ていた青」
「失恋第五番」
「失恋第六番」

「シャーロック・ホームズ」は収録作中唯一の長編で、表題どおりホームズもの。この全集の刊行当初は、そもそも山本周五郎が探偵小説を数多く書いていたという事実にまず驚いたものだが、それどころかホームズ譚まで残していたとはいやはや何とも。ただし、昨今のパロディとかパスティーシュというような凝ったものではない。ましてや名推理等々の本格テイストを期待するなどもってのほか。
本作はあくまでキャラクターを借りた周五郎独自のホームズものといった趣。基本は「モンゴール王の宝玉」を巡ってホームズと悪漢がしのぎを削る冒険活劇仕立てなのである。
ただ、これがまたむやみやたらに面白い。
街の不良少年をベイカー・ストリート・イレギュラーズよろしく使ったり、滝から落ちて死んだことになったり、「まだらの紐」をまんま拝借したりと、正統派シャーロキアンでも喜びそうなネタがあるかと思えば、ホームズとは思えない言動の数々を楽しむといったシャーロキアン激怒必至の趣向まで盛り沢山。そしてそれらを活写する山本周五郎の筆のなんと奔放なことよ。
ラストの衝撃(笑)も含めて、もちろん本書の一押しである。
ホームズに比べると分は悪いが「猫眼石殺人事件」の和製ルパンも悪くない。敏腕記者、春田三吉(龍介君との関係は?)対和製ルパンの対決が見もので、これもジュヴナイルのせいか動きが多く楽しい作品である。「シャーロック・ホームズ」と同様、ラストがちょっと面白く、こういう手際を見せられると、ただ笑ってばかりもいられないなぁと感心してしまう。
「怪人呉博士」は、ソーンダイク博士を翻案した三津木春影の呉田博士ものをさらにパクッたような設定の呉博士もの。そのくせ探偵役が呉博士でないところが、まあ大らかというか何というか(苦笑)。ちなみにこれもジュヴナイル。
「出来ていた青」は珍しく大人向け。ジュヴナイルとは打ってかわって一気に下ネタが入ってくることに注目したい。皮肉でも何でもなく、山本周五郎が大衆小説に対して、見事なまでの嗅覚を備えていた証しともいえる。ただし、いたずらに扇情的なだけではなく、ミステリとしても比較的しっかりした出来であるのはさすが。
「失恋第五番」と「失恋第六番」は一応シリーズもので、大会社のグータラ御曹司、千田二郎を主人公とする作品。好きになった女性との恋愛を成就しようとしながらも、いつの間にか事件に巻き込まれ、手柄は立てるがあわれ恋愛は……、というのがパターンのようだ。純粋な探偵小説とはいいがたく、ミステリ風味のある大衆小説といったところ。基本路線は明朗ながら、敗戦の傷跡が作中に色濃く滲み出ているのがせつない。
全体的な評価としては、あえてオススメとしておきたい。
ミステリ的な質だけを問えばさほどプッシュする必要もないし、好き嫌いもかなり出よう。だが、ミステリマニア相手ではない、一般読者へのサービスに徹した物語は、猥雑ながら非常にエネルギーに満ちた作品ばかりである。当時の面白い少年小説の水準を知る意味でも価値はあるし、そもそも少年探偵団が現在もなお読まれるなら、周五郎のジュヴナイルも読まれて然るべきではないだろうか。
第一巻は少年探偵・春田龍介の活躍を描いたジュヴナイル集だったが、第二巻ではホームズやルパンなど海外ミステリの影響を受けたと思われる作品を集めたものが中心。ただ、こちらも実は半数がジュヴナイルであり、第一巻と同様かなり破天荒な物語が揃っていそうで、これは期待するしかあるまい(笑)。まずは収録作。
「シャーロック・ホームズ」
「猫眼石殺人事件」
「怪人呉博士」
「出来ていた青」
「失恋第五番」
「失恋第六番」

「シャーロック・ホームズ」は収録作中唯一の長編で、表題どおりホームズもの。この全集の刊行当初は、そもそも山本周五郎が探偵小説を数多く書いていたという事実にまず驚いたものだが、それどころかホームズ譚まで残していたとはいやはや何とも。ただし、昨今のパロディとかパスティーシュというような凝ったものではない。ましてや名推理等々の本格テイストを期待するなどもってのほか。
本作はあくまでキャラクターを借りた周五郎独自のホームズものといった趣。基本は「モンゴール王の宝玉」を巡ってホームズと悪漢がしのぎを削る冒険活劇仕立てなのである。
ただ、これがまたむやみやたらに面白い。
街の不良少年をベイカー・ストリート・イレギュラーズよろしく使ったり、滝から落ちて死んだことになったり、「まだらの紐」をまんま拝借したりと、正統派シャーロキアンでも喜びそうなネタがあるかと思えば、ホームズとは思えない言動の数々を楽しむといったシャーロキアン激怒必至の趣向まで盛り沢山。そしてそれらを活写する山本周五郎の筆のなんと奔放なことよ。
ラストの衝撃(笑)も含めて、もちろん本書の一押しである。
ホームズに比べると分は悪いが「猫眼石殺人事件」の和製ルパンも悪くない。敏腕記者、春田三吉(龍介君との関係は?)対和製ルパンの対決が見もので、これもジュヴナイルのせいか動きが多く楽しい作品である。「シャーロック・ホームズ」と同様、ラストがちょっと面白く、こういう手際を見せられると、ただ笑ってばかりもいられないなぁと感心してしまう。
「怪人呉博士」は、ソーンダイク博士を翻案した三津木春影の呉田博士ものをさらにパクッたような設定の呉博士もの。そのくせ探偵役が呉博士でないところが、まあ大らかというか何というか(苦笑)。ちなみにこれもジュヴナイル。
「出来ていた青」は珍しく大人向け。ジュヴナイルとは打ってかわって一気に下ネタが入ってくることに注目したい。皮肉でも何でもなく、山本周五郎が大衆小説に対して、見事なまでの嗅覚を備えていた証しともいえる。ただし、いたずらに扇情的なだけではなく、ミステリとしても比較的しっかりした出来であるのはさすが。
「失恋第五番」と「失恋第六番」は一応シリーズもので、大会社のグータラ御曹司、千田二郎を主人公とする作品。好きになった女性との恋愛を成就しようとしながらも、いつの間にか事件に巻き込まれ、手柄は立てるがあわれ恋愛は……、というのがパターンのようだ。純粋な探偵小説とはいいがたく、ミステリ風味のある大衆小説といったところ。基本路線は明朗ながら、敗戦の傷跡が作中に色濃く滲み出ているのがせつない。
全体的な評価としては、あえてオススメとしておきたい。
ミステリ的な質だけを問えばさほどプッシュする必要もないし、好き嫌いもかなり出よう。だが、ミステリマニア相手ではない、一般読者へのサービスに徹した物語は、猥雑ながら非常にエネルギーに満ちた作品ばかりである。当時の面白い少年小説の水準を知る意味でも価値はあるし、そもそも少年探偵団が現在もなお読まれるなら、周五郎のジュヴナイルも読まれて然るべきではないだろうか。
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Comments
Edit
読みますた。
ホームズの話は、特に後半まだらの紐あたりから「ありえない~」と大笑いでした。楽しすぎる。ホームズ好きの女性読者としては許し難いラストの衝撃も許します(^^;
一番よかったのは「猫眼石~」ですかね。解説にこの社長は『寝ぼけ署長』の原型ではないかと書いてあったので、そっちも読んでみたくなりました。
しかし考えてみると、山本周五郎読んだのって初めてなんですよね。初・周五郎がホームズパロディってなんか読書生活が間違ってるかも・・
Posted at 22:25 on 10 11, 2008 by Sphere
Sphereさん
初周五郎がホームズというのは、やはり問題があるでしょう(笑)。
ま、それはともかく、気にいただけたようで何よりです。『寝ぼけ署長』も純粋な謎解きではありませんが、読み物としては十分楽しめますよ。さすがにこの探偵小説全集のような破天荒さはありませんが(笑)。
Posted at 00:11 on 10 12, 2008 by sugata