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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


L・P・デイビス『忌まわしき絆』(論創海外ミステリ)

 先日の記事でなんとなく鬱な文章を書いたのも、L・P・デイビスの『忌まわしき絆』を読んだからかもしれない。これがまあ、ぶっちゃけ傑作というほどではないのだが、このまま埋もれさせるにはちょっと惜しいタイプの作品なのだ。論創海外ミステリの一冊とはいえ、内容はほとんどホラーといってよく、そういうところもあまり人気に結びつかなかった一因かもしれないが。こんな話。

 ある小学校で、少年が体育館に上り、後ろ向きに落下するという不思議な事故が起こった。担任の歴史教師シーコムは、その事故の前、子供たちの間で些細なトラブルがあったことを知り、そのトラブル相手の少年ロドニー・ブレイクから事情を聞こうとする。ところがロドニーの姿はなく、前後して彼にまつわるその他の不思議な出来事を突き止める。いったい少年にどのような秘密が隠されているのか。調査を開始したシーコムだったが……。

 忌まわしき絆

 主人公が事件の発端にたまたま関わり、どうしても頭の中に引っかかるところがあって、ついつい調査を開始するという流れは、予想以上に探偵小説らしいノリ。加えてその調査が地道な聞き込みをベースにしたもので、この一歩一歩真相に近づいてゆく知的興奮&スリルが本書の読みどころといってよく、ミステリ的にも読める所以である。
 少々気になったのは、主人公たちが超常現象をあっさりと受け入れすぎること、そして捜査がスムーズに進みすぎること。もう少し主人公たちにはさまざまな試行錯誤を重ねさせた方が、よりストーリーに膨らみが出たのではないか。
 とはいえ全編を包むムードは独特のものだし、語り口も変にエキセントリックなところがなく好ましい。とりわけ新たな謎を次々と提示してゆく前半~中盤はたたみ掛けもうまく、トータルでは合格点といえるだろう。昨今のモダンホラーともタイプが微妙に異なるだけに、もう少し他の作品も読んでみたいという気には十分させられた。
 我が国ではほとんど知られていないこともあるし、こういう珍しい作家は、版元がもっとアピールして、次に繋げていってほしいものだ。


Comments

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くさのまさん

>こちら以外では肯定的な意見を目にしたことがなかったので心して読みましたが(笑)、

え、そうなんですか? おかしいなぁ、けっこう評価されている作品だと思ったんですが(笑)。まあSF畑の人からはダメ出し食らいそうではありますね。でもB級ミステリ好きにはけっこうご馳走かと。光るところはちゃんとありますしね。

>この小説の最初の一文に「刈られたばかりの草の甘い香り」という言葉が出て来るのですが〜

いま現物に当たってみましたが確かに出てます! 私も真相はわかりませんが、もしそのとおりなら、ちょっといい話ですよね。

Posted at 23:38 on 11 13, 2014  by sugata

Edit

読みました。

 こちら以外では肯定的な意見を目にしたことがなかったので心して読みましたが(笑)、なかなかの拾いものでした。
 てことてこ台の意味が分かる瞬間の迫力は時代を考えれば相当なものかと。その後があっけないのが残念ですが。
 一作だけではこれがメインの作風なのかもわからないので、もうちょっと紹介されて欲しい作家ですね(こんなコメントばっかり)。
 そういえば、この小説の最初の一文に「刈られたばかりの草の甘い香り」という言葉が出て来るのですが、これって(後に同じ叢書から翻訳された)ブラックバーンの処女作の題名に酷似していませんか? あちらの方が先なので、デイビスは似た作風の先輩に敬意を表したのかも? 単なる偶然でしょうか?

Posted at 05:01 on 11 13, 2014  by くさのま

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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