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室生犀星『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』(ちくま文庫)
ちくま文庫の文豪怪談傑作選から『室生犀星集 童子』を読む。
室生犀星については今さら説明の要もないだろう。金沢の生んだ偉大な詩人であり、故郷の自然や生あるものへの慈しみに溢れた作品を数多く残したことで知られている。同時に彼はすぐれた小説家でもあり、詩作で培った感性をそのまま生かしたような、幻想的な作品もまた少なからず残している。本書はそんな室生犀星の幻想的作品や怪談をまとめた一冊。

「童話」
「童子」
「後の日の童子」
「みずうみ」
「蛾」
「天狗」
「ゆめの話」
「不思議な国の話」
「不思議な魚」
「あじゃり」
「三階の家」
「香爐を盗む」
「幻影の都市」
「しゃりこうべ 」
とまあ、上でわかったような能書きを並べてみたものの、実は室生犀星の小説を読むのはこれが初めてである(爆)。予備知識もほとんどなく読み始めたのだが、いや、これは凄いぞ。
収録作品は大きく三つのテーマに分けられている。家族や子供をテーマにした怪異譚、民話を素材にした怪談的なもの、今で言う都市伝説を描いたような幻想的作品群である。
そのどれもが満足できる出来なのだが、とりわけ家族や子供をテーマにした「童話」から「みずうみ」までの四作は尋常ではない。犀星自身、恵まれた出自ではなく、おまけに自らの子供を幼いときに亡くすという体験をもっている。どれもシンプルな構成で物語の筋などあってないような話ばかりなのだが、そういった悲痛な実体験が色濃く反映されているだけに、大きく読み手の精神を揺さぶってくるのだ。
例えば「童話」などは兄妹や親子の会話だけで、ほぼ話が展開していく。だが、最初は他愛ないとも見えるこの会話の中から、冷たく暗い真実が徐々に炙り出されていく。その語り口が見事。
いわゆる流れるような文章というのではない。どちらかというと木訥な、しかも一定のトーンで紡がれるような独特のリズムである。相手を驚かせるつもりはなく、ましてやそれほど驚くべき真相でもないのだが、振り子のように繰り返される会話から少しずつ見えてくる真相が、背筋に薄ら寒いものを走らせる。「童子」などはスーパーナチュラルな要素などまったくないのだけれど、やはり怖い。夫婦の感情は一見理解できそうで、実は非常に共感しにくく、早い話が彼らは壊れているとしか思えなくなってくる。まさに紙一重である。
言ってしまえば、これら家族テーマの作品は、どれもが犀星の暗く澱んだ情念を読まされているといっても過言ではない。通常の怪談の怖さとは違うけれど、読後のダメージは相当なもので(ちなみにカバーの童子のイラストも、読後にあらためて見るとダメージ倍増は必至)、犀星のダークサイドを知るにはもってこいの作品集といえる。ただしデリケートな人は要注意。
室生犀星については今さら説明の要もないだろう。金沢の生んだ偉大な詩人であり、故郷の自然や生あるものへの慈しみに溢れた作品を数多く残したことで知られている。同時に彼はすぐれた小説家でもあり、詩作で培った感性をそのまま生かしたような、幻想的な作品もまた少なからず残している。本書はそんな室生犀星の幻想的作品や怪談をまとめた一冊。

「童話」
「童子」
「後の日の童子」
「みずうみ」
「蛾」
「天狗」
「ゆめの話」
「不思議な国の話」
「不思議な魚」
「あじゃり」
「三階の家」
「香爐を盗む」
「幻影の都市」
「しゃりこうべ 」
とまあ、上でわかったような能書きを並べてみたものの、実は室生犀星の小説を読むのはこれが初めてである(爆)。予備知識もほとんどなく読み始めたのだが、いや、これは凄いぞ。
収録作品は大きく三つのテーマに分けられている。家族や子供をテーマにした怪異譚、民話を素材にした怪談的なもの、今で言う都市伝説を描いたような幻想的作品群である。
そのどれもが満足できる出来なのだが、とりわけ家族や子供をテーマにした「童話」から「みずうみ」までの四作は尋常ではない。犀星自身、恵まれた出自ではなく、おまけに自らの子供を幼いときに亡くすという体験をもっている。どれもシンプルな構成で物語の筋などあってないような話ばかりなのだが、そういった悲痛な実体験が色濃く反映されているだけに、大きく読み手の精神を揺さぶってくるのだ。
例えば「童話」などは兄妹や親子の会話だけで、ほぼ話が展開していく。だが、最初は他愛ないとも見えるこの会話の中から、冷たく暗い真実が徐々に炙り出されていく。その語り口が見事。
いわゆる流れるような文章というのではない。どちらかというと木訥な、しかも一定のトーンで紡がれるような独特のリズムである。相手を驚かせるつもりはなく、ましてやそれほど驚くべき真相でもないのだが、振り子のように繰り返される会話から少しずつ見えてくる真相が、背筋に薄ら寒いものを走らせる。「童子」などはスーパーナチュラルな要素などまったくないのだけれど、やはり怖い。夫婦の感情は一見理解できそうで、実は非常に共感しにくく、早い話が彼らは壊れているとしか思えなくなってくる。まさに紙一重である。
言ってしまえば、これら家族テーマの作品は、どれもが犀星の暗く澱んだ情念を読まされているといっても過言ではない。通常の怪談の怖さとは違うけれど、読後のダメージは相当なもので(ちなみにカバーの童子のイラストも、読後にあらためて見るとダメージ倍増は必至)、犀星のダークサイドを知るにはもってこいの作品集といえる。ただしデリケートな人は要注意。
Comments
Edit
これは惹かれました。
1歳4ヶ月児の父として、心揺さぶられるものがありました。また、実はうちの息子は、小耳症(及び外耳道閉鎖)という先天奇形があります。これからの成長を思うとき、様々な事があるかも知れませんが、一緒に乗り越えていきたいと思っています。
ぜひ、読んでみたいと思わせていただき、ありがとうございます。素晴らしいサイトですね。改めて思いました。
Posted at 23:37 on 11 06, 2008 by めとろん
涼さん
同感です。室生犀星の本だけでなく、この『文豪怪談傑作選』は全般的に装画が素晴らしいですが、その中でも『室生犀星集 童子』は白眉ではないかと思います。
めとろんさん
過大なお言葉をありがとうございます。とにかく読後のダメージが大きすぎて、とても今回の感想は褒められたものではないのですが、ただ、このあまりに切なく、そしてやるせない読後感だけは、何とか伝えたいものだと意識しました。決してハッピーになれるという類の本ではありませんけれど、親子の絆について深く考えさせられることだけは確かだと思います。
ご子息のお話には驚きましたが、めとろんさんのその強い志と温かいお気持ちがあれば、未来は暗いわけがありません。心より応援しております。
Posted at 01:17 on 11 07, 2008 by sugata