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 ローレンス・ブロック『タナーと謎のナチ老人』を読む。“眠らない男”エヴァン・タナー・シリーズの第二作である。
 主人公のタナーは、脳に障害を負ったことで、まったく眠ることができなくなった男。彼は不要になった睡眠時間を勉学に費やし、あらゆる思想や語学、知識を身につけた。そして論文の代筆業を営むほどの教養を身につけたばかりか、果ては世界中の様々な政治組織にコネクションをもつまでになる。やがてその能力に目をつけた米政府は、彼に極秘の仕事を依頼するようになった。
 そして今回の任務は……。

 タナーと謎のナチ老人

 チェコスロバキアの秘密警察に逮捕され、刑務所に収監されたネオ・ナチの老人活動家。このままいけば死刑は間違いないところだが、米政府が気にしているのはまだ所在が明らかにされていないナチの極秘資料だ。その資料を彼から探り出すため、タナーに課せられた任務は、なんとナチ老人の身柄の確保。プラハの牢獄から救いだし、無事国外へと運び出さなければならないのだ。困難きわまりない任務に、タナーはどう出る?

 予測不可能な展開と独特の語り口、この二つが本シリーズの持ち味といえる。
 ただし、予測不可能の展開とはいっても、それはドキドキハラハラの手に汗握るストーリー展開ではなく、スパイ小説の常識を覆すオフビートな展開。さらには独特の語り口とはいっても、緊張感溢れるハードボイルドな文体ではなく、飄々とした独特のゆるさを漂わせたそれである。
 この二つがミックスされ、本シリーズはイアン・フレミングの痛快なアクション・スパイ小説とも、ジョン・ル・カレのシリアスなスパイ小説とも違う味わいを生むことに成功している。ユーモアに溢れた単なるスパイ小説もどき、と切って捨てる向きもあるだろう。だが、パッと見は安手のスパイ小説ながら、当時の冷戦や民族問題を越えたところに意義を見出そうとする、この主人公の独特の倫理観は、なかなか捨てがたい。この味わいに近いのはスパイ小説などではなく、ブロック自身の殺し屋ケラーものであろう。
 もちろんそんなややこしい読み方などをせずとも、十分に楽しめる要素も満載。ナチの戦犯+冷戦+民族問題で揺れるヨーロッパ情勢を味つけにしながら、いかにして脱獄や国外脱出を成功させるかという見せ場もちゃんと用意されている。馬鹿馬鹿しいといえば実に馬鹿馬鹿しい脱獄&脱出方法ではあるが、ただふざけるのではなく、縛りをちゃんと設けた上でクリアしているのは、さすがにブロックである。
 そんなこんなで第一作同様、本書も十分おすすめである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



















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