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三橋一夫『黒の血統』(出版芸術社)
帯にも謳われているとおり幻想あり推理あり怪奇ありと、非常にバラエティに富んだ内容である。だが、内容はさまざまでも、独特のユーモアやしみじみとした余韻によって彩られた作品群はやはり三橋作品ならではのもの。これらをひっくるめて「まぼろし部落」とか「ふしぎ小説」と銘打ったのはなかなか上手いネーミングといえる。うろ覚えだが、前者は確か横溝正史、後者は著者本人が考えたと、どこかで読んだ記憶が。

「生胆盗人」
「怪しの耳」
「夢」
「天から地へ」
「秋風」
「黒の血統」
「その夕べ」
「不思議な遺書」
「霊魂のゆくえ」
「空袋男」
「或る晩年」
「幕」
「ハルポックとスタマールの絵印」
「ミスター・ベレー」
「再生」
「第三の耳」
「なみだ川」
「浮気な幽霊」
「アイ・アム・ユー」
「猫」
「沼」
「片眼」
「天狗来訪」
「とべとべ眼玉」
収録作は以上。
ハズレがほとんどなく、どれも安定した水準で楽しめるのは、前二作と御同様。
ただ、個人的な好みで言わせてもらうと、表題作「黒の血統」のようにハッタリをかました作品、あるいは「怪しの耳」「空袋男」のような奇想を前面に押し出した作品もいいのだけれど、読後にホロッとくるタイプものの方がより好みだ(三橋作品に限っての話)。例えば「夢」「秋風」「或る晩年」などなど。
特に「秋風」は先日読んだ『室生犀星集 童子』のある作品と同様のシチュエーションを備えており、終着点は微妙に異なるけれども、この切なさは甲乙付けがたい。実は「秋風」は再読なのだが、ネタを承知していたにもかかわらずウルッときてしまった。
世にいろいろと小説のお好みはあろうが、ミステリや幻想小説、短篇好きな人なら、騙されたと思って一度は読んでもらいたい。
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Comments
「まぼろし部落」
今さらの書込みで申し訳ありませんが。
三橋一夫氏の「まぼろし部落」総代を横溝正史氏がつけた事については、三橋氏自身が「幻影城』昭和50年5月号へ寄稿した「『まぼろし部落』のころ」で触れている事が分かりました。
該当文章の引用は、論創社の『横溝正史探偵小説選Ⅲ』の「解題」に掲載されるそうです。
横溝正史「怪奇幻想の作家三橋一夫氏に期待す」も、同書へ収録されるとの事です。
Posted at 15:27 on 12 05, 2008 by L.M
L.Mさん
おお、情報ありがとうございます&はじめまして。
三橋一夫が健康法をあまり信じていなかったという説は面白いですね。実は二冊ほど持ってはいるのですが、さすがにこればかりはなかなか読む気が起きず、一生ものの積ん読かと思っていたのですが……ちょっと興味が湧いてきました(苦笑)
Posted at 01:50 on 11 19, 2008 by sugata
「まぼろし部落」命名
確か、横溝氏が「まぼろし部落」と命名したのは、エッセイ「怪奇幻想の作家三橋一夫氏に期待す」(『新青年』昭和24年6月号)だったと思います。
手元に資料が無いので、現物確認できておりませんが、横溝氏が「まぼろし部落」と言う総代を考えられたのは間違いない筈です。
三橋一夫氏は、健康関係の書籍も何冊か出版されているようですが、実際は健康法を(あまり)信じていなかったのではないかと言う指摘もあります。
Posted at 22:26 on 11 18, 2008 by L.M
涼さん
ううん、残念ながら文庫化はなかなか難しいかもしれませんね。一般にはほとんど知られていない作家ですし、そこまでの需要があるかどうか。出版芸術社からこれらの本が出たときも奇跡かと思ったぐらいです(笑)。
ちなみに「健康本」を書くのは晩年のことで、小説をほぼ止めてしまった後のことになります。
ついでにいうと、三橋一夫には「ふしぎ小説」と「健康本」の間に、いわゆる「明朗小説」と呼ばれるものを大量に書いていた期間もあります。こちらに至ってはすべて古書でしか手に入らず、そもそも古本屋でも滅多に見かけません。どこかの酔狂な出版社が復刻してくれないものかと、いつも念じているのですが、それこそ奇跡を待つしかないですね(苦笑)。
Posted at 02:03 on 11 15, 2008 by sugata
L.Mさん
続報ありがとうございます。
私も『幻影城』の現物にあたってみましたが、幻想小説の特集の絡みですね。確かに三橋氏の記述を確認しました。
ただ、そのあと少し調べてみたら、この『「まぼろし部落」のころ』はなんと『腹話術師』にも再録されているんですね。私が記憶していたのはおそらくこれのようです。去年読んだばかりなのにもう忘れているのは情けない限りですが(苦笑)。
とりあえず『横溝正史探偵小説選Ⅲ』も鶴首して待ちたいと思います。
Posted at 21:23 on 12 06, 2008 by sugata