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 『このミステリーがすごい!2009年版』や『週刊文春』の「2008ミステリーベスト10」もどうやら出揃った模様。そちらは週末にでもゆっくり読むことにして、本日は先週の日曜に観たDVDの感想など書いてみたい。

 ものは1964年に公開された、核の恐怖を描くSF戦争映画『未知への飛行』である。
 監督はシドニー・ルメット、主演はヘンリー・フォンダ。あの法廷ものの傑作『十二人の怒れる男』と同様の布陣であり、こちらとしては当然ながら良質の、そして硬派な社会派ドラマを期待してしまうわけだが、その期待をまったく裏切らない傑作だった。

 米軍のコンピュータの故障により、爆撃部隊へモスクワへの核攻撃が発動された。命令を受けた五機の爆撃機は帰還可能ポイント=フェイル・セイフをも越えてしまい、もはや大統領といえども帰還を命じることは不可能。大統領はホットラインでソ連の議長に連絡し、これが事故であり、爆撃機を何とか破壊してほしいと依頼する。
 仲間を見殺しにする罪悪感で悩む将校、クーデターまがいの行動に走る軍人、この機を逃さずソ連を叩くべきだと叫ぶ学者。さまざまな思惑が渦巻く中、大統領は核戦争に突入する愚だけは避けなければならないと考え、ソ連側に軍事上の機密まで明かして軍部に撃墜の協力をさせる。一機また一機と撃墜される爆撃機。だが国家を守るためと信じて飛行するパイロットたちは、命をかけ、とうとう最後の一機をモスクワに到達させることに成功する。水爆によってモスクワの壊滅が決定的となったとき、大統領はこの事故が事故であることをソ連側に信用させるため、そして戦争への危機を回避するため、ある重大な決断を下す……。

 上で「戦争映画」と書いたが、本作で描かれる戦争シーンはほとんどなく、いわゆる通常の戦争映画とはまったく趣が異なる。
 ここで描かれるのは米ソの冷戦における恐怖であり、核の恐怖であり、人間の愚かさだ。それを表現するために、監督はあえて舞台をほぼ室内に限定してしまう。大統領の執務室と米軍司令室、そして爆撃機の機内などだ。ときおり爆撃機の飛行シーンなどは挿入されるものの、ストーリーはほぼ会話だけで進行する。ある種の極限状態に置かれた権力者たちの議論は、理性と欲望が新たなカオスを生み出し、とてつもないほどの緊迫感を生む。重苦しさやサスペンスが常に画面中にみなぎっているといえばいいか。平和を望むが故に最大の暴力をもって事に当たらなければならないという、この矛盾。人間の愚かさ、戦争のばからしさを嫌というほど見せつけてくれる。
 テーマは異なれど、この緊張感は同じ監督の『十二人の怒れる男』と同質のもので、その手腕には恐れ入るばかりである。

 そしてこの緊迫感に満ちた二時間弱の最後に、さらなる衝撃が待っている。それが大統領の下す決断だ(その内容についてはネットなどで調べれば山ほど書かれてはいるが、あえてここでは書かない。できれば未見の人は知らないままで観てもらいたい)。
 あまりに強烈なメッセージが込められたラストは、ある意味、絶望と虚無感しか残らないものだが、これぐらいでなければメッセージとしては伝わらないという製作者たちの覚悟が感じられる。受け止める我々もまた、この覚悟をしっかりと理解しなければならないだろう。
 

 実はこの映画、しっかりと原作があって、創元推理文庫から出ていたバーディック&ウィーラー『未確認原爆投下指令』がそれ。こちらも文句なしの傑作。おそらく絶版だろうがネットでもリアルでも古書店では割と見かけるので、機会があればぜひ読んでもらいたい。





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