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ジェイムズ・パウエル『道化の町』(河出書房新社)
ジャック・リッチーに続いてKAWADE MYSTERYをもういっちょ。各誌のベスト10などでもランクインが目立つジェイムズ・パウエルの短編集『道化の町』。

Have You Heard the Latest?「最近のニュース」
A Bequest for Mr. Nugent「ミスター・ニュージェントへの遺産」
The Code of the Poodles「プードルの暗号」
The King of the Orangutans「オランウータンの王」
The Talking Donkey「詩人とロバ」
The Theft of the Fabulous Hen「魔法の国の盗人」
A Keyhole in Time「時間の鍵穴」
The Altdorf Syndrome「アルトドルフ症候群」
The Vigil of Death「死の不寝番」
The Dunderhead Bus「愚か者のバス」
The Origami Moose「折り紙のヘラジカ」
A Dirge for Clowntown「道化の町」
ジェイムズ・パウエルについては昔『EQ』などで少し読んだことがある程度。とにかく妙な話を書く人だなぁという記憶しか残っていなかったが、こうして一冊にまとまったものを読むと、この人の発想のキテレツさがよくわかって面白い。初めこそいわゆる「奇妙な味」のつもりで読み始めたのだが、ひとつ読み、ふたつ読むうちに、これはもう「奇妙な味」といったレベルどころではないことに気づき、久々に頭がくらくらするような刺激を味わった。
ミステリやSF、ホラー、幻想小説等、パーツ自体はよく馴染んでいるジャンルから採られているものが多いのだけれど、その配置がそもそも狂っているというか。おまけに展開も思いっきり捻れているため、まったく予断を許さない。
例えば「プードルの暗号」は、奇抜な設定ながら何となく結末は予想できるなと思っていると、意外なところに着地点が待っている。「オランウータンの王」などはサスペンスを高めつつ悲惨な結末を予想させておいて、哲学的といってよいぐらいのオチを用意している。とにかく最後まで読まないことには、オチどころかジャンルまで予測不能なのだ。これはなかなか真似しようと思っても真似できるタイプではなく、見事なまでに独自のスタイルを築き上げている。
これらの作品に比べると、ミステリ寄りの作品は、構成そのものは一応ミステリっぽい。といっても魔法の国といった世界観のもとに描かれていたり、はたまた登場人物のほとんどが密室内の互いの目前で殺されたりと、およそあり得ない話ばかりで、異様さという点ではむしろこれらの方が上。「魔法の国の盗人」「愚か者のバス」「折り紙のヘラジカ」、そしてもちろん表題作の「道化の町」。どれも濃い。「道化の町」なんてアイディア勝負というのは簡単だが、あそこまで道化という存在を物語に組み込んで、しかもミステリとして成立させているところなど尋常ではない。
変な例えだが、パウエルの作品はシロップの原液を飲まされているような印象である。少々薄められると冒頭の「最近のニュース」のように読みやすい話にもなるが、それはあくまで入門用。パウエルの作品においては、あくまで原液の毒々しさに触れ、理解すべきである。
結論。先日読んだジャック・リッチーなどは切れ味の良さでこちらを唸らせてくれるが、パウエルは悪夢でもってこちらを呻かせてくれるタイプである。趣は異なれど、どちらも必読。

Have You Heard the Latest?「最近のニュース」
A Bequest for Mr. Nugent「ミスター・ニュージェントへの遺産」
The Code of the Poodles「プードルの暗号」
The King of the Orangutans「オランウータンの王」
The Talking Donkey「詩人とロバ」
The Theft of the Fabulous Hen「魔法の国の盗人」
A Keyhole in Time「時間の鍵穴」
The Altdorf Syndrome「アルトドルフ症候群」
The Vigil of Death「死の不寝番」
The Dunderhead Bus「愚か者のバス」
The Origami Moose「折り紙のヘラジカ」
A Dirge for Clowntown「道化の町」
ジェイムズ・パウエルについては昔『EQ』などで少し読んだことがある程度。とにかく妙な話を書く人だなぁという記憶しか残っていなかったが、こうして一冊にまとまったものを読むと、この人の発想のキテレツさがよくわかって面白い。初めこそいわゆる「奇妙な味」のつもりで読み始めたのだが、ひとつ読み、ふたつ読むうちに、これはもう「奇妙な味」といったレベルどころではないことに気づき、久々に頭がくらくらするような刺激を味わった。
ミステリやSF、ホラー、幻想小説等、パーツ自体はよく馴染んでいるジャンルから採られているものが多いのだけれど、その配置がそもそも狂っているというか。おまけに展開も思いっきり捻れているため、まったく予断を許さない。
例えば「プードルの暗号」は、奇抜な設定ながら何となく結末は予想できるなと思っていると、意外なところに着地点が待っている。「オランウータンの王」などはサスペンスを高めつつ悲惨な結末を予想させておいて、哲学的といってよいぐらいのオチを用意している。とにかく最後まで読まないことには、オチどころかジャンルまで予測不能なのだ。これはなかなか真似しようと思っても真似できるタイプではなく、見事なまでに独自のスタイルを築き上げている。
これらの作品に比べると、ミステリ寄りの作品は、構成そのものは一応ミステリっぽい。といっても魔法の国といった世界観のもとに描かれていたり、はたまた登場人物のほとんどが密室内の互いの目前で殺されたりと、およそあり得ない話ばかりで、異様さという点ではむしろこれらの方が上。「魔法の国の盗人」「愚か者のバス」「折り紙のヘラジカ」、そしてもちろん表題作の「道化の町」。どれも濃い。「道化の町」なんてアイディア勝負というのは簡単だが、あそこまで道化という存在を物語に組み込んで、しかもミステリとして成立させているところなど尋常ではない。
変な例えだが、パウエルの作品はシロップの原液を飲まされているような印象である。少々薄められると冒頭の「最近のニュース」のように読みやすい話にもなるが、それはあくまで入門用。パウエルの作品においては、あくまで原液の毒々しさに触れ、理解すべきである。
結論。先日読んだジャック・リッチーなどは切れ味の良さでこちらを唸らせてくれるが、パウエルは悪夢でもってこちらを呻かせてくれるタイプである。趣は異なれど、どちらも必読。