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太宰治『文豪ミステリ傑作選 太宰治集』(河出文庫)
松本清張が生誕百年ということで話題になっている。出版社ではいろいろな企画もスタートしているようだが、実は他にもけっこう生誕百年の作家がいることをご存じだろうか? 純文学畑では埴谷雄高や中島敦。ミステリでは『船富家の惨劇』で知られる蒼井雄などがそう。
だがもう一人、忘れてはならない作家がいる。清張に匹敵するだけのネームバリューをもつ1909年生まれの作家とは、そう、太宰治だ。
すでにさまざまな自治体でイベントが立ち上がり、『斜陽』も映画化されたりと(公開は今年の5月予定)いろいろな動きがあるなか、おそらく誕生月の六月にはこの騒ぎもピークを迎えることになるはず。小畑健の表紙にした『人間失格』の売上げが数倍になったというエピソードもまだ記憶に新しいが、これでまた太宰治がブームになるのだろうか?

さて、本日の読了本は、そんな太宰治のミステリをまとめた『文豪ミステリ傑作選 太宰治集』。まずは収録作から。
「魚服記」
「地球図」
「雌に就いて」
「燈籠」
「姥捨」
「葉桜と魔笛」
「愛と美について」
「誰も知らぬ」
「清貧譚」
「令嬢アユ」
「恥」
「日の出前」
「女神」
「犯人」
「女類」
谷崎潤一郎や佐藤春夫ならいざ知らず、太宰治ってミステリ書いてたっけ? そんな疑問を持つ人も多かろう。実際のところ太宰治がミステリに興味があったなどという話は聞いたことがなく、本書に含まれているのも、せいぜいが幻想小説であったり、多少なりともオチを利かせたものであったり、犯罪や死を扱った物語というところである。いやあ、正直これをミステリ傑作選として売るのは詐欺だろう(笑)。
ただ作品自体に罪はない。単品でみると興味深い作品もちらほらあり、以下、印象に残った作品&感想など。
「魚服記」や「清貧譚」は民話をベースにしたもので幻想小説といってよいだろう。「魚服記」はいわゆる変身譚。もの悲しい津軽のイメージが鮮烈。逆に「清貧譚」は変にハートフルで、全然太宰っぽくないところが面白い。
「燈籠」はちょっと怖い。恋に狂った女の一人称は怖い。
「葉桜と魔笛」は本書でもっともミステリっぽい作品かも知れない。基本は叙情的な作品なのだが、ミステリ的な捻り、幻想小説的なラストと盛りだくさん。横溝正史の若い頃の作品っぽい。
「愛と美について」はいったい何なんだろう(笑)。個性的な五人の兄妹が順番に物語を作ってゆくという話で、太宰治がこういうものを書いていた、という話のネタだけでも読んでおきたい。
「令嬢アユ」も他愛ない話だけれど、令嬢の正体を明かす部分が少しミステリ的ではある。
「恥」は太宰版『ミザリー』。ユーモラスではあるが、女性一人称がやはり少し怖さを感じさせる。
「日の出前」はラスト一行のインパクト。
「犯人」は太宰ミステリとしては一番アンソロジーに採られる作品かも(でもミステリじゃない)。最後のオチは正直必要性を感じないけれど、犯人の逃避行はもう少し長めの形で読んでみたいと思った。
だがもう一人、忘れてはならない作家がいる。清張に匹敵するだけのネームバリューをもつ1909年生まれの作家とは、そう、太宰治だ。
すでにさまざまな自治体でイベントが立ち上がり、『斜陽』も映画化されたりと(公開は今年の5月予定)いろいろな動きがあるなか、おそらく誕生月の六月にはこの騒ぎもピークを迎えることになるはず。小畑健の表紙にした『人間失格』の売上げが数倍になったというエピソードもまだ記憶に新しいが、これでまた太宰治がブームになるのだろうか?

さて、本日の読了本は、そんな太宰治のミステリをまとめた『文豪ミステリ傑作選 太宰治集』。まずは収録作から。
「魚服記」
「地球図」
「雌に就いて」
「燈籠」
「姥捨」
「葉桜と魔笛」
「愛と美について」
「誰も知らぬ」
「清貧譚」
「令嬢アユ」
「恥」
「日の出前」
「女神」
「犯人」
「女類」
谷崎潤一郎や佐藤春夫ならいざ知らず、太宰治ってミステリ書いてたっけ? そんな疑問を持つ人も多かろう。実際のところ太宰治がミステリに興味があったなどという話は聞いたことがなく、本書に含まれているのも、せいぜいが幻想小説であったり、多少なりともオチを利かせたものであったり、犯罪や死を扱った物語というところである。いやあ、正直これをミステリ傑作選として売るのは詐欺だろう(笑)。
ただ作品自体に罪はない。単品でみると興味深い作品もちらほらあり、以下、印象に残った作品&感想など。
「魚服記」や「清貧譚」は民話をベースにしたもので幻想小説といってよいだろう。「魚服記」はいわゆる変身譚。もの悲しい津軽のイメージが鮮烈。逆に「清貧譚」は変にハートフルで、全然太宰っぽくないところが面白い。
「燈籠」はちょっと怖い。恋に狂った女の一人称は怖い。
「葉桜と魔笛」は本書でもっともミステリっぽい作品かも知れない。基本は叙情的な作品なのだが、ミステリ的な捻り、幻想小説的なラストと盛りだくさん。横溝正史の若い頃の作品っぽい。
「愛と美について」はいったい何なんだろう(笑)。個性的な五人の兄妹が順番に物語を作ってゆくという話で、太宰治がこういうものを書いていた、という話のネタだけでも読んでおきたい。
「令嬢アユ」も他愛ない話だけれど、令嬢の正体を明かす部分が少しミステリ的ではある。
「恥」は太宰版『ミザリー』。ユーモラスではあるが、女性一人称がやはり少し怖さを感じさせる。
「日の出前」はラスト一行のインパクト。
「犯人」は太宰ミステリとしては一番アンソロジーに採られる作品かも(でもミステリじゃない)。最後のオチは正直必要性を感じないけれど、犯人の逃避行はもう少し長めの形で読んでみたいと思った。
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