- Date: Tue 20 01 2009
- Category: 海外作家 ディーヴァー(ジェフリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ジェフリー・ディーヴァー『スリーピング・ドール』(文藝春秋)
ジェフリー・ディーヴァーの『スリーピング・ドール』を読む。リンカーン・ライム・シリーズの『ウォッチメイカー』に登場したCBI捜査官キャサリン・ダンスを主人公にした、いわゆるスピンオフ作品である。
すべてをコントロールすることに執着を見せる殺人カルト教祖、ダニエル・ペル。彼はある富豪一家を惨殺したことで逮捕されたものの、刑務所からの脱獄を図る。捜査の指揮を任されたカリフォルニア州捜査官の《人間嘘発見器》キャサリン・ダンスは、持ち前のキネクシス分析を用い、一歩一歩ペルを追いつめてゆくが、ペルもまたその頭脳で捜査の手をすり抜けてゆく。果たしてペルの狙いは何なのか。惨殺された一家の唯一の生き残りの少女《スリーピング・ドール》がカギを握ると考えたダンスは、彼女から話を聞きだそうとするが……。

前作『ウォッチメイカー』の出来が素晴らしかったので、次はどうなることやらと要らぬ心配をしていたのだが、まったくの杞憂だったようだ。なんと『ウォッチメイカー』で重要な役割を果たしたキャサリン・ダンスを主役に持ってくることで、見事に自らの可能性を広げ、高水準をキープしてみせた。インパクトだけでいえば『ウォッチメイカー』に譲るものの、そのスピード感やどんでん返しの妙は健在だし、何よりキネクシス分析という要素が、物語の要所要所に彩りを添え、重要なアクセントになっている。
言葉のかすかな抑揚であったり所作の変化であったり、人の言動からその心理を読み解くテクニックがキネクシス分析だ。ダンスはまさにその技術の天才であり、証人や容疑者から数々の真実を引き出していくシーンは、まさに見せ場の中の見せ場である。
本作のもうひとつの読みどころは、主人公を巡るドラマが再びしっかりと描かれるようになったところ。実は最近のライム・シリーズではそこが物足りないのである。もちろんそこらへんのミステリよりは全然ハイレベルなのだが、四肢の麻痺という大問題を抱えるライムには、やはり事件とライム自身の密接な関わりがほしい。『ボーン・コレクター』がよかったのは、鑑識捜査の凄さやスピード感もさることながら、そういったドラマ性が高かったことも忘れてはならない。
本作では主人公が代わったおかげで、シリーズもののように登場人物をさらっと流すこともない。家族とのやりとりや恋愛、仕事や同僚との関係が丹念に描かれ、しかもそれが単なる味付けでなく、事件の展開にも融合されている。おまけにカルト教祖の「ファミリー」とダンスの家族を対比することでテーマも明確に打ち出すという、いやはやお見事な手際である。
『ウォッチメイカー』の後だけに、どうしても迫力という点では損をしてしまうが、読んで損をすることはまったくない。むしろディーヴァーを初めて読む人にもおすすめできる傑作である。
すべてをコントロールすることに執着を見せる殺人カルト教祖、ダニエル・ペル。彼はある富豪一家を惨殺したことで逮捕されたものの、刑務所からの脱獄を図る。捜査の指揮を任されたカリフォルニア州捜査官の《人間嘘発見器》キャサリン・ダンスは、持ち前のキネクシス分析を用い、一歩一歩ペルを追いつめてゆくが、ペルもまたその頭脳で捜査の手をすり抜けてゆく。果たしてペルの狙いは何なのか。惨殺された一家の唯一の生き残りの少女《スリーピング・ドール》がカギを握ると考えたダンスは、彼女から話を聞きだそうとするが……。

前作『ウォッチメイカー』の出来が素晴らしかったので、次はどうなることやらと要らぬ心配をしていたのだが、まったくの杞憂だったようだ。なんと『ウォッチメイカー』で重要な役割を果たしたキャサリン・ダンスを主役に持ってくることで、見事に自らの可能性を広げ、高水準をキープしてみせた。インパクトだけでいえば『ウォッチメイカー』に譲るものの、そのスピード感やどんでん返しの妙は健在だし、何よりキネクシス分析という要素が、物語の要所要所に彩りを添え、重要なアクセントになっている。
言葉のかすかな抑揚であったり所作の変化であったり、人の言動からその心理を読み解くテクニックがキネクシス分析だ。ダンスはまさにその技術の天才であり、証人や容疑者から数々の真実を引き出していくシーンは、まさに見せ場の中の見せ場である。
本作のもうひとつの読みどころは、主人公を巡るドラマが再びしっかりと描かれるようになったところ。実は最近のライム・シリーズではそこが物足りないのである。もちろんそこらへんのミステリよりは全然ハイレベルなのだが、四肢の麻痺という大問題を抱えるライムには、やはり事件とライム自身の密接な関わりがほしい。『ボーン・コレクター』がよかったのは、鑑識捜査の凄さやスピード感もさることながら、そういったドラマ性が高かったことも忘れてはならない。
本作では主人公が代わったおかげで、シリーズもののように登場人物をさらっと流すこともない。家族とのやりとりや恋愛、仕事や同僚との関係が丹念に描かれ、しかもそれが単なる味付けでなく、事件の展開にも融合されている。おまけにカルト教祖の「ファミリー」とダンスの家族を対比することでテーマも明確に打ち出すという、いやはやお見事な手際である。
『ウォッチメイカー』の後だけに、どうしても迫力という点では損をしてしまうが、読んで損をすることはまったくない。むしろディーヴァーを初めて読む人にもおすすめできる傑作である。
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そうですね、『静寂の叫び』ですね。
私もまったく自然に『沈黙の叫び』でスルーしてしまいました。しかもその後、『静寂の叫び』 って自分で書いてるし……orz
おまけに、これ、どっちも映画の話だったんですね(爆)
恥ずかしながら小説の方の話かと思っておりました(;^_^A