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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マイクル・コナリー『終決者たち(下)』(講談社文庫)

 三年振りにロス市警へ復帰したハリー・ボッシュ。配属されたのは未解決事件班で、久々にキズミン・ライダーとコンビを組み、十七年前に起きた少女殺害事件に乗り出す。当時は一般的でなかったDNA鑑定により、意外に事件解決が早いと思われた矢先のこと。肝心の証拠が警察内から消え失せ、しかも当時の捜査に上層部からの圧力がかかって迷宮入りになっていた事実まで判明する。因縁浅からぬロス市警副本部長アーヴィンとの確執も再燃するなか、ボッシュは再び己の信ずる正義を貫こうとするが……。

 終決者たち(下)

 マイクル・コナリーの『終決者たち』下巻読了。
 いやいや、まずは文句無し。一言で言うと実に端正な出来映えである。このシリーズに「端正」という言葉はあまり似つかわしくない気もするが、とにかく完成度は高い。そして意外にも事件以外の要素を極力排除し、ストレートな警察小説に仕上げている。

 先日の日記でも書いたように、ボッシュ・シリーズは『堕天使は地獄へ飛ぶ』(後で気がついたのだが、文庫版では『エンジェル・フライト』。なんで邦題変えたのかね?)までは、警察小説の装いはしているものの、根っこはあくまで正当派ハードボイルド。しかも事件と自己、社会の在りようがとことんシンクロする強烈な「怒り」の物語であった。ところが『夜より暗き闇』からは次々と新たな試みに着手し、しかも小説としての完成度をいっそう高めていくという離れ業を見せる。
 だが、ここで作者のコナリーはこれまでのシリーズをいったん清算し、さらに新たなステージへシリーズを昇華させようとしているように思える。

 その結果がすなわち『終決者たち』だ。
 まず今まで数々の苦悩や内省を続けてきたボッシュをとりあえず救済し、純粋に警察小説という枠内で勝負させているのが大きな特徴である。
 事件そのものはややダイナミックさに欠け、そこが若干物足りないところではあるが、事件のカギを握る人物を中心にして、当時の人間模様や社会を炙り出すところなどはさすがに巧い。また、以前ならばそこでボッシュの内面をもろにリンクさせていたところを敢えて抑え、横軸はあくまでシンプルに構成しているところがこれまでの作品と大きく異なる。
 とはいえ過去の事件を扱っていることや、加えて警察内部の問題も絡めてくる辺りは、縦軸だけとっても十分に職人芸で、その結構たるや一段と磨きがかかっている。「端正」と感じた所以である。
 なお、ラストの二つのエピソードは、ボッシュ・シリーズでは滅多に見られない類のもので、これがあるから読後感はすこぶるよい。「ボッシュ・シリーズで今後このような爽快感や読後感の良さを感じさせてくれることなどまずあるまい」と訳者が解説に記しているほどで、まあ、コナリーもえらい言われようだが(苦笑)、実際その可能性は高いだろう。
 新たなステージに向かうボッシュへの御祝儀というわけでもないだろうが、そういう点でも本作の位置づけはシリーズ中でも大きな意味を持つに違いない。

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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