- Date: Sun 08 02 2009
- Category: 海外作家 クイーン(エラリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エラリー・クイーン『間違いの悲劇』(創元推理文庫)
遅ればせながらクイーン最後の聖典とされている『間違いの悲劇』を読む。それまでの既刊短編集には収められていなかった中短篇七作に、未完の長篇の梗概を加えた構成で、本国での刊行は1999年。邦訳版では「結婚記念日」が追加されているのが嬉しい。以下は収録作。
The Motive「動機」
Wedding Anniversary「結婚記念日」
Uncle from Australia「オーストラリアから来たおじさん」
The Reindeer Clue「トナカイの手がかり」
The Three Students「三人の学生」
The Odd Man「仲間はずれ」
The Honest Swindler「正直な詐欺師」
The Tragedy of Errors「間違いの悲劇」

「動機」はタイトルどおり動機のミッシング・リンクをテーマとする中編。連続殺人を連続殺人たらしめているカギはいったい何なのか、ポイントはその一点に絞られる。加えて田舎の小さな町が徐々にパニックに包まれていく様子や恋愛要素の取り込み方も巧く、ドラマとしても十分楽しめる。
「結婚記念日」から「トナカイの手がかり」は<クイーン検察局>もの。ネタ的にはダイイング・メッセージをはじめとした言葉遊び的な短篇がほとんどで、正直もうひとつ。
「三人の学生」「仲間はずれ」「正直な詐欺師」は<パズルクラブ>というシリーズで、<黒後家蜘蛛の会>の逆パターン。解答者が一人、出題者がその他全員という設定で、推理クイズに興じるというもの。クイーンといえどもこの時点で個人的にはかなり萎えた(苦笑)。本格ミステリの本質が「謎とその論理的な解決」=「パズルゲーム」であったとしても、その小説という表現形態までも犠牲にすることはない。これをメタと称するのはさすがに贔屓の引き倒しのような気がする。ネタ的には言葉遊び系も含まれているが、もうナゾナゾのような印象で、読み応えはあまりない。
「間違いの悲劇」は本書の目玉。これはもう予想以上の出来で、梗概とはいえここまで書いてくれたら十分すぎるほどである。とりわけ秀逸なのはプロットで、クイーンの物語においてこのオフビートな展開はそう味わえるものではなく、しかもそれがある登場人物の意図に基づいて行われた結果であるという点が実に素晴らしい。「悩めるクイーン」と犯人の哲学の対比もかなり面白く、これが完成していれば間違いなく後期の代表作になっただろう。
解説で、有栖川有栖氏がこの作品の小説化を持ちかけられ、結局は立ち消えになった話を書いているが、これは立ち消えになってよかったのではないか。別に有栖川氏が作家としてどうこうとかではない。梗概とはいえ、この作品がオリジナルとして、他人の手を加えられていない状態で読めること。多くのクイーンファンが望んだのはまずその点だろうから。
The Motive「動機」
Wedding Anniversary「結婚記念日」
Uncle from Australia「オーストラリアから来たおじさん」
The Reindeer Clue「トナカイの手がかり」
The Three Students「三人の学生」
The Odd Man「仲間はずれ」
The Honest Swindler「正直な詐欺師」
The Tragedy of Errors「間違いの悲劇」

「動機」はタイトルどおり動機のミッシング・リンクをテーマとする中編。連続殺人を連続殺人たらしめているカギはいったい何なのか、ポイントはその一点に絞られる。加えて田舎の小さな町が徐々にパニックに包まれていく様子や恋愛要素の取り込み方も巧く、ドラマとしても十分楽しめる。
「結婚記念日」から「トナカイの手がかり」は<クイーン検察局>もの。ネタ的にはダイイング・メッセージをはじめとした言葉遊び的な短篇がほとんどで、正直もうひとつ。
「三人の学生」「仲間はずれ」「正直な詐欺師」は<パズルクラブ>というシリーズで、<黒後家蜘蛛の会>の逆パターン。解答者が一人、出題者がその他全員という設定で、推理クイズに興じるというもの。クイーンといえどもこの時点で個人的にはかなり萎えた(苦笑)。本格ミステリの本質が「謎とその論理的な解決」=「パズルゲーム」であったとしても、その小説という表現形態までも犠牲にすることはない。これをメタと称するのはさすがに贔屓の引き倒しのような気がする。ネタ的には言葉遊び系も含まれているが、もうナゾナゾのような印象で、読み応えはあまりない。
「間違いの悲劇」は本書の目玉。これはもう予想以上の出来で、梗概とはいえここまで書いてくれたら十分すぎるほどである。とりわけ秀逸なのはプロットで、クイーンの物語においてこのオフビートな展開はそう味わえるものではなく、しかもそれがある登場人物の意図に基づいて行われた結果であるという点が実に素晴らしい。「悩めるクイーン」と犯人の哲学の対比もかなり面白く、これが完成していれば間違いなく後期の代表作になっただろう。
解説で、有栖川有栖氏がこの作品の小説化を持ちかけられ、結局は立ち消えになった話を書いているが、これは立ち消えになってよかったのではないか。別に有栖川氏が作家としてどうこうとかではない。梗概とはいえ、この作品がオリジナルとして、他人の手を加えられていない状態で読めること。多くのクイーンファンが望んだのはまずその点だろうから。
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息子さんはクイーンをお好きだったんですね。少し特殊な本ではありますが、本書で涼さんが豊かな時間を過ごせるようお祈りしております。