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 風間光枝探偵日記

 論創ミステリ叢書から『風間光枝探偵日記』を読む。なんと木々高太郎、海野十三、大下宇陀児というビッグネームが、雑誌『太陽』の企画に応じて書いた、風間光枝を主人公とする連作短篇集である。下の収録作を見てほしいが、これは当時の掲載順どおりで、木々から始まり、海野>大下の順で、毎月書かれたらしい。とにかくこの強烈な異なる個性の三人が、本当にちゃんと共通の設定で書いていったのかがまず注目される。
 もうひとつ特筆すべきは、主人公の風間光枝が、日本のミステリにおける女性探偵第一号(“隼お秀”という存在もいるけれど、彼女は一応スリだし)ということ。掲載は1939年から1940年、軍靴の音も激しくなってきた頃だから、その時代の職業婦人(しかも探偵である)という存在、さらには各作家の女性観などもうかがえるなど、けっこう様々な観点から読めそうな設定ではある。
 なお、本書はこれに海野十三の、風間美千子を探偵役とする連作短篇“科学捕物帳”、さらには同じく海野十三の女性探偵もの、“蜂矢風子探偵簿”を収録。さながら女性探偵黎明期集の様相を呈している。収録作はこちら。

■“風間光枝探偵日記”
木々高太郎「離魂の妻」
海野十三「什器破壊業事件」
大下宇陀児「危女保護同盟」
木々高太郎「赤はぎ指紋の秘密」
海野十三「盗聴犬」
大下宇陀児「慎重令嬢」
木々高太郎「金冠文字」
海野十三「痣のある女」
大下宇陀児「虹と薔薇」

■海野十三“科学捕物帳”
「鬼仏洞事件」
「人間天狗事件」
「恐怖の廊下事件」
「探偵西へ飛ぶ!」

■海野十三“蜂矢風子探偵簿”
「沈香事件」
「妻の艶書」
「幽霊妻」

 いやあ、これは楽しいわ。本格探偵小説としては、まあこの三人なので端から期待はしていなかったし、まあ予想以上にお馬鹿な話ばかりなのだが(笑)、ミステリマインドというかサービス精神というか、そういう要素は十分すぎるほど盛り込まれているのだ。
 「離魂の妻」がまずいい。さすが探偵小説芸術論を唱えた木々高太郎らしく、叙情性の高いショートドラマに仕立てており、しかも風間光枝の登場シーンを一作目ならではという印象的な形にまとめあげている(謎解き的にはダメダメですが)。ここでの風間光枝は、二十歳という年齢とは思えない、大人の雰囲気を醸し出している。
 さて、このロマンティズムをどう引き継ぐのかと思いつつ、ページをめくるとそこは海野十三。「離魂の妻」の余韻冷めやらぬうち、「什器破壊業事件」では作風もキャラクターもまったく変貌している。あの淑女然とした風間光枝はどこへやら、若干二十歳という年齢どおり、いやもっと子供っぽいぐらいの活動的な娘となり、作風もユーモアを全面に押し出すタイプ。加えて海野のシリーズキャラ、元祖迷探偵の帆村荘六まで登場させ、主役の座をかっさらっていってしまう。
 三番手、大下宇陀児はどうくるか。後期は社会派としての顔が強くなった彼だが、やはりこの頃はまだまだ茶目っ気たっぷり。「危女保護同盟」ではしっかりと海野の路線を引き継いでいる(さすがに帆村は出していないが)。ただ女学生の同窓会に端を発し、そこからスパイ事件まで強引にもっていくあたりは鮮やか……いや、さすがに無茶で、その功績はワトソン役に降格寸前の風間光枝に花を持たせたところか。

 とまあ、こんな感じで繰り返し三人の作風の違いを楽しめるのが素晴らしいといえば素晴らしい。これでも連載前には三人の作家が集まって設定等を打ち合わせたというのだから恐れ入る。ただ、海野の作風はかなり刺激的で、大下ばかりか木々すら最終的には海野の路線に染まってきているのが面白い。海野は特にこの女性探偵の設定が気に入ったようで、“科学捕物帳”と銘打った風間美千子ものは名前を見てもわかるように、ほぼ風間光枝ものといってよい。もちろん帆村も登場し、その掛け合いがいいアクセントになっている。
 なお、“蜂矢風子探偵簿”は戦後の作で、風間光枝ものに比べるとやや落ち着いた印象。それでも「幽霊妻」がSFミステリ仕立てであるところなど、やはり海野十三は侮れない。

 現代の基準で本書を語れば、確かにレベル的にはいまひとつ。だが上でも書いたように、戦時下の女性の在り方が垣間見えたり、各作家らの女性観なども直接的に伺える点などは、やはり興味深い。作品的にも全部がバカミスとかではなく、ミステリとしてのツボは押さえている。同時代の他の作家に比べると明らかに読ませる力は高い(もちろん乱歩や正史と比べるのは反則)。
 戦前の国産探偵小説に理解のある人なら、間違いなく酔える一冊。過大評価しすぎだな、今日は(苦笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





Sphereさん

探偵小説の大家に対し、あまりに失礼な物言いになるのではないかと自重していましたが、実はこの三人、女性探偵という設定に喜々として書いている節があります(笑)。
それぞれがこうあってほしいという理想の女性、さらにはこんな風につきあってみたいぞという心理の表出ではないかと考える次第です。
例えば大下の「虹と薔薇」あたりは、そのテーマの昇華ではないかと思えますし、海野などはある意味、好きな女の子をいじめて楽しむ心理が、ほぼ全作に渡って押し出されております。「痣のある女」に至ってはほとんど帆村と風間のラブコメ状態ですから、当時のミステリ好きな若者たちににどのような悪影響を及ぼしたか、ちと心配になるほどです。
彼らなりのいわゆる“萌え”のイメージと言っても過言ではないでしょう。
【2009/02/14 03:27】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

いやーん変な組み合わせ、と思わず叫びたくなる3人。全員好きだけど(^^;
それにしても連作、合作だけではなく連作短編集という手もありましたか。この時代の作家はホントこういう企画好きですね~。
まあ海野+角田喜久雄の青沼静馬、じゃなくてそんなようなペンネームで書いた作品も意外に普通だったりするのであまり期待はしませんが、これはぜひ読んでみなきゃと思いました(^^;
【2009/02/13 21:01】 URL | Sphere #kbXIr43o[ 編集]















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