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ディーノ・ブッツァーティ『神を見た犬』(光文社古典新訳文庫)

ディーノ・ブッツァーティの短編集『神を見た犬』を読む。
著者は幻想文学の書き手として有名なイタリアの作家だが、恥ずかしながら名前を知っていた程度で、ずいぶん前に何かのアンソロジーで読んだ気はするのだが、まとまった著書に接するのはこれが初めて。難解で重い作風だという記憶はあったのだが、いざ読んでみるとブラックな要素こそ強いもののかなり読みやすく、オチの利いた作品も少なくないのに驚いた。解説によると、本書はもともと学生向けに編まれたものらしく、比較的興味を引きやすく、わかりやすい作品が採られている可能性は高い。言ってみればブッツァーティ入門書的な性格が強いのかもしれない。
ただ、読みやすく面白いからといって、それがテーマの軽重に直結するわけでないことはもちろんである。ブッツァーティが扱うものは宗教、政治、戦争、科学、神話等と幅広いが、まあ、よくある言い方をすれば、それらがすべて「人間とはいかなる存在なのか」「生きることとはどういう営みなのか」というようなことに集約されている。さらにうざい言い方を許してもらえるなら、人間とはいかなる存在でもいいのであって、人間がテーマなのではなく、人間について考えることがテーマと言えるのかもしれない。
だから本書に収められた物語の多くは、常に明確な問いかけが見える。ブッツァーティは鮮やかに物語を紡いでみせてくれるので、ついそちらに意識が飛んでしまうけれども、彼の問いかけに考えたり感じたりすれば実はそれでOKなのであり、結末などどうでもよいのである(ただし物語としての面白みは著しく落ちるだろうけれど)。人間だけに許された営みを、ブッツァーティは繰り返し語る。その結果、彼の物語はまるで現代に書かれた神話の趣すら漂っている。
La cerazione「天地創造」
Il colombre「コロンブレ」
Appuntamento con Einstein「アインシュタインとの約束」
La canzone di Guerra「戦の歌」
Sette piani「七階」
I Santi「聖人たち」
Il corridoio del grande albergo「グランドホテルの廊下」
Il cane che ha visto Dio「神を見た犬」
Il palloncino「風船」
L'assalto al grande convoglio「護送大隊襲撃」
La giacca stregata「呪われた背広」
La lezione del 1980「一九八〇年の教訓」
L'arma segreta「秘密兵器」
Il bambino tiranno「小さな暴君」
Il crollo del santo「天国からの脱落」
Il seccatore「わずらわしい男」
Questioni ospedaliere「病院というところ」
L'umiltà「驕らぬ心」
Racconto di Natale「クリスマスの物語」
Il mago「マジシャン」
La corazzata "Tod"「戦艦《死》」
La fine del mondo「この世の終わり」
収録作は以上。上で書いたように、パシッとオチを決めるよりは、解釈が広がる作品の方がブッツァーティの魅力を感じられるような気はする。そういう意味ではありきたりになってしまうが、やはり表題作「神を見た犬」は抜群である。また、過程そのものに毒のある「戦の歌」「七階」などというあたりも好み。
ミステリ好きが読んでも、けっこうハッとする話も多く、少なくとも異色作家短篇集が好きな人なら失望することはないはず。おすすめ。
kazuouさん
ネットで調べてみると、邦訳は他にも何冊かあるようですが、そのほぼすべてが絶版なのですね。しかも本書以上に評価されている方も多く、これはいやでも気になります。
私も続刊にはぜひ期待したいところです。
Posted at 04:46 on 02 19, 2009 by sugata