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 最近、短編集を読む比率が非常に高くなってきた。まったく意識はしていない。単にそれだけ読みたくなるような短編集が増えている、ということだろう。河出をはじめとして、あちらこちらの出版社から面白い叢書も出ているし、クラシックとはまた別のところでムーブメントが続いている感じである。一昔前だと、短編集は売れないというのが定説だっただけに、時代が変わったというほかない。ただ、個人的には短編の場合ひとつふたつ読むだけで、けっこうお腹がいっぱいになってしまい、読書ペースが上がらないのが悩みの種である。

 さて、本日の読了本『知りすぎた男 ホーン・フィッシャーの事件簿』も短編集だが、これがまた手強かった。
 なんせ作者はG・K・チェスタトン。ミステリをミステリとして終わらせるようなことは決して無い。常に批評家としての眼で事件や物語のなかから真理を導きだそうとする書き方だけに、それこそ噛みしめるようにして読まないと、意味がわからないことも多い。
 それでもブラウン神父ものなどはいい。お得意の逆説などは出てくるが全然理解しやすい範囲だし、何よりミステリとしての収穫が非常に大きく、その愉悦にどっぷり浸ることができる。ところが本書の場合は違った。

 知りすぎた男

The Face in the Target「標的の顔」
The Vanishing Prince「消えたプリンス」
The Soul of the Schoolboy「少年の心」
The Bottomless Well「底なしの井戸」
The Hole in the Wall「塀の穴」
The Fad of the Fisherman「釣り人のこだわり」
The Fool of the Family (The Temple of Silence)「一家の馬鹿息」
The Vengeance of the Statue「像の復讐」
The Garden of Smoke「煙の庭」(ノン・シリーズもの)
The Five of Swords「剣の五」(ノン・シリーズもの)

 収録作は以上。最初の八編、「標的の顔」から「像の復讐」までがホーン・フィッシャーを探偵役とする連作である。
 ホーン・フィッシャーは政治から趣味に至るまで非常に幅広い教養と知識をもつ“知りすぎた男”だ。生まれもよく知人や親類縁者には大臣や政府関係者も多い。だが、世の中の仕組みや裏を知り尽くすゆえか、その言動にはどこか倦怠感が漂い、常に苦悩の影が落ちている。
 そんな彼が巻き込まれるのは決まって国際情勢や政治、あるいは政治家に絡む事件ばかり。だが、その事件の性質ゆえに、真相が公になることはない。個の犯罪という事実は、国家の未来の前には二の次三の次なのである。フィッシャーは真相を解き明かすけれども、それをすべて司法に委ねるわけではない。この事件は英国にとってどういう意味があるのか、それを受けてどう行動すべきなのか、最終的な判断はそのバランスの中で生まれてくるのである。

 そういうわけで、本書のミステリとしての出来はまずまずといったところで、それほど驚くようなものではない。上で書いたように、政治的な解決や政治的な真実というものについてチェスタトンは語りたいわけで、ブラウン神父のレベルを期待すると、かなり裏切られる羽目になる。ミステリの体裁は整えてはいるものの、設定やら事件の背景やら、すべてがチェスタトンの唱えるテーゼのために構築されているのだから、これは当然だろう。
 結局、ここを理解して楽しめるかどうかで、本書の価値は変わってくる。管理人のような単なるミステリファンには、正直この政治的蘊蓄部分が退屈なだけであった。
 ただ実はこの連作、始めから大きな狙いのもとに書かれており、八編通して読んだとき初めてその価値がわかる構成になっている。最初の数作でわかった気になっていると、最後の二作あたり、「一家の馬鹿息」や「像の復讐」でかなりの衝撃を受けるはずだ。
 ううむ、やはりチェスタトンは侮れない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





ポール・ブリッツさん

チェスタトンのノンシリーズなどを読んでいると、正直ブラウン神父ものは別格なのだなぁと痛感します。以前にミステリーと文学の境界線上にあるものが好き、なんてことを書いたと思いますが、チェスタトンはミステリと政治の境界線とか、ミステリと哲学の境界線とか、そんな話ばかり書いている気がして、基本的にはやはり疲れるものが多いですね。
以前、たわむれに評論集の『正統とは何か』を買ってみたのですが、「いちはやく文明の危機と現代人の病理を予言し、逆説的発想と諧謔あふれる文体で、近代思想の価値の転倒を試みた」という内容なので、さすがになかなか読み出せません(笑)。
【2009/04/28 00:58】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

チェスタトンの魅力は、その英国人らしい底意地の悪いユーモアと諧謔精神、そこから立ち上がってくる逆説と論理にあると思っているので、ユーモアと諧謔精神が見られないこの本は、読んでいて非常にきつかったです。犯人も「高度な政治的判断」によりもみ消されてしまうため、読んでいてカタルシスもないですし。
わたしが面白かったのは、なんといっても「一家の馬鹿息子」における「高度な政治的判断」ですが、「像の復讐」では、あんたそこまで頭がいいんだったらこんな国を捨てて亡命しませんかと登場人物のひとりにいいたくなりましたなあ。
やはりブラウン神父やガブリエル・ゲイル、「日曜日」にバジル元判事といった人びとのほうにシンパシーを感じてしまいます。小説好きというよりもミステリファンなんでしょうねえ。
【2009/04/27 16:33】 URL | ポール・ブリッツ #0MyT0dLg[ 編集]















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