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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫)

 宝島社から『シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1』および『vol.2』が出ている。グラナダTVによるデジタル・リマスター版で、ムックタイプの解説も付き、しかもお値段的には既に出ているハピネット・ピクチャーズの完全版よりはかなりお得である(ただ今後の予定すらはっきりしないのが不安だが)。
 このからくりをご存じの方、コメント、メールでもいいんでぜひご教授を。


 D・M・ディヴァインの『ウォリス家の殺人』読了。
 歴史学者モーリスは、幼なじみで今は有名作家となったジョフリー・ウォリスに招待された。しかし、その実は、ジョフリーの妻ジュリアに、夫の様子がおかしいと訴えられての訪問だった。どうやらジョフリーは次に出版する予定の日記や、兄ライオネルとの確執など、さまざまな問題を抱えているらしい。ジョフリー邸に滞在を始めたモーリスは、否応なしに家族や関係者の緊張関係に気づかされる羽目に陥り、そして最初の悲劇が……。

 ウォリス家の殺人

 相変わらず上手いなあ。ストーリーは地味だし、特に大きなトリック等もないのだが、実に見事な本格ミステリである。
 『悪魔はすぐそこに』を読んだときにも感想に書いたのだが、人物描写がとにかく丁寧で、これは作者にとってある意味真相を見抜かれる怖れに直結するわけである。ところがディヴァインは、その人物描写のなかに伏線を忍ばせ、延いては読者を誤誘導することに成功している。小説が下手な作家には真似のできない芸当であり、これがディヴァインの最大の魅力でもあるのだろう。
 訳者の中村有希氏はあとがきで、本作がクイーンの「ライツヴィルもの」にも通ずる旨を示唆しているが、確かに人間ドラマを基盤にし、かつその人間関係を巧みに利用した仕掛けを用いる点などは、いいところを突いている。個人的にもクイーンでは圧倒的に「ライツヴィルもの」押しの人間なので、ディヴァインに惹かれるのも納得である。

 なお、本書の原作は1981年刊行だが、作中の年代などから、実際に書かれたのはデビュー当時ではないかと言われているらしい。この辺りの事情は少し解説等でフォローしてくれれば嬉しかったなぁ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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