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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


F・W・クロフツ『フレンチ警部と漂う死体』(論創海外ミステリ)

 本日の読了本は、実に久々のクロフツで、『フレンチ警部と漂う死体』。

 電気機器会社を経営するウィリアム・キャリントンは、年齢による衰えから、会社を後進に譲る決意をする。ところが本来なら候補一番手の甥のジムは、仕事に興味がないばかりか会社のお荷物になっている始末。そこでウィリアムはオーストラリアに住むもうひとりの甥、マントを呼び寄せた。しかしマントは期待通りの働きを見せるものの、ウィリアムの一族の間にぎくしゃくした空気が流れ始める。そんなある日、ウィリアムの誕生日での晩餐において、一族全員の食事に毒物が混入されるという事件が起こる……。

 フレンチ警部と漂う死体

 いやあ、クロフツ、本当に久しぶりに読んだのだが、予想以上に楽しいではないか。
 一応、『樽』『マギル卿~』『クロイドン~』といった有名作品をはじめとして十作ぐらいは読んでいるのだが、それももう三十年ぐらい昔の話。当時は本格ミステリ黄金期の五大作家、ということで読んだはずだが、どうしてもクイーンやクリスティあたりに比べると地味だから、それほどのめり込むことがなかった。
 ところがこっちも年をとり、ようやくクロフツを楽しめる準備が整ったということなんだろう。ここまで自分の波長に合うとは思わなかった。

 ややもすると退屈な作風と評されたりもするクロフツだが、おそらくそれは退屈と地味を混同している。本書に関していえば、練られた人物造形、(こぢんまりとはしているが)しっかりしたトリック、適度なユーモア、そして屋敷での最初の事件~船旅と第二の惨劇~フレンチ警部の捜査という構成の妙など、確かに突出した部分はないけれど、非常にバランスよく仕上がっている。実にまっとうな英国の本格ミステリなのだ。
 また、フレンチ警部のキャラクターについても、捜査一筋、真面目一辺倒の面白みのない性格という記憶しかなかったのだが、本書を読むかぎりは、これもけっこう印象が異なる。
 仕事の合間に観光もできるだけやっておきたいぞという俗っぽいところ、ロンドン警視庁に誇りをもちすぎているせいか田舎の警察官をちょっとなめているところ、推理する過程での一喜一憂、奥さんとのユーモラスなやりとりなど、クイーンやポアロに比べればはるかにリアルで人間くさく、これがまたいい味つけになっている。

 クラシックブームの功績としてよく挙げられるのは、何より未知の作家や作品を読めるようにしてくれたことなのだが、こうした評価されるべき作家をしっかりと再評価、再認識させてくれる意義もあったようだ。反省も踏まえつつ、二十年物の積ん読クロフツを少し消化しなければ。

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Comments

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Sphereさん

久しぶりに読んで印象が変わる作家はかなりいますが、意外に、というか多くは読み手に原因があるのではないかとひそかに考えています。突き詰めていくと、自分がどういうふうに変わってきているのか考えたりもして、これはこれで読書の魅力なんじゃないでしょうか。

クロフツについては迂闊でした(苦笑)。復刻だ何だというまえに、積ん読を消化しろという天の声かもしれません。

Posted at 23:21 on 03 07, 2009  by sugata

Edit

私もクロフツは、昔読んだときは良さがわからなかったです。
それが3年くらい前に読んだらいいじゃんと思って、以来古書店にいくたびにチェックを欠かさず十数冊読みましたが、やはりクロフツを楽しめる年代になったということでしょうか。地味だからどこが良いのかよくわからないんですが、なんか和むんですよね。あまり続けて読むと飽きるけど(^^;
『~漂う死体』は未読なので、これも読んでみたいです。

Posted at 22:05 on 03 07, 2009  by Sphere

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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