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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ミルワード・ケネディ『スリープ村の殺人者』(新樹社)

 ミルワード・ケネディの『スリープ村の殺人者』を読む。著者はオーソドックスな謎解き探偵小説も書くけれど、クセのあるシニカルな探偵小説もいろいろと書いていた人。
 かつて国書刊行会から刊行された『救いの死』はシニカル系の代表作で、ここまで意地の悪い探偵小説を書ける人もそうそういないだろうという、決して万人向けとはいえない内容だった。本日読んだ『スリープ村の殺人者』はオーソドックスな謎解き系の代表作。さて、その出来映えは?

 スリープ村の殺人者

 九月のとある日、スリープ村の貸別荘をめざし、のんびりと手漕ぎのボートで進む男がいた。途中、道を尋ねようと、教会の桟橋にボートを泊めた男は、そこで司祭らしき人物が殺されているのを発見する。矢継ぎ早に起きる盗難、そして殺人事件に、ボートの男も容疑を受けるのだが……。

 本当に『救いの死』の作者とは思えないほど真っ当な探偵小説で、実に基本に忠実に書いている印象。メインのトリックは悪くないし、適度な伏線の張り方など、謎解きという観点からは、お手本にしていいぐらいのまとまりがある。
 だからといって面白い探偵小説なのかというと、それがちょっと微妙なところ。物語の芯となるべき流れ、あるいは芯となるべきキャラクターが定まっておらず、非常にぎくしゃくした展開がまずいけない。その場その場で上っ面の物語を流すだけなので、緊迫感もなく、盛り上がりにも欠ける。登場人物たちの言動も連続殺人という状況にしてはまるで緊張感がないし、これはもしかしたら単に小説が下手なだけなのだろうか。
 『救いの死』では逆に描写の面白さが際だっていただけに、ちょっと残念な一冊であった。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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