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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

松本清張『松本清張短編全集03張込み』(光文社文庫)

 マイブームの松本清張短編全集もこれで三つ目。各短編のボリュームはそれほどあるわけではないが、相変わらず濃い作品ばかりで、読み終えるとかなり胃にもたれる(苦笑)。とりあえず収録作を見てみよう。

「張込み」
「腹中の敵」
「菊枕」
「断碑」
「石の骨」
「父系の指」
「五十四万石の嘘」
「佐渡流人行」

 松本清張短篇全集03張込み

 もっとも知られているのは「張込み」か。今では清張ミステリの原点とも言われる作品で、事件を通して描かれるのは、トリックやロジックではなく、犯人をかつて愛した女の心理である。そのテイストから当時はミステリと思われなかったそうだが、平凡に見えた発端から意外な方向に物語が流れていくのは、十分に読者をひっぱるだけの興味を備えており、このドキドキ感はやはりミステリのそれだろう(広義の、だけど)。もちろん、それは今の人間だからいえる感想なのだが。

 なお、残念ながら本作でのミステリは「張込み」のみで、清張の創作がミステリ中心になるのはもうちょっと後の話。本作に収められているのは昭和三十年頃の作品なのだけれど、あくまで中心は歴史物も含めて人間のドラマだ。
 とりわけこの頃の作品に顕著なのは、才能も野心もあるけれど、生まれが恵まれていないために不遇な生涯を送るというパターン。「菊枕」「断碑」「石の骨」などはどれもそのライン上の作品で、清張が主人公に自分の姿を重ね合わせているというのは定説のようだが、繰り返し語られる苦悩や執念は尋常ではない。しかもほとんどの場合ハッピーエンドとはならず、読後感も決してよいものではない。興味深い内容だけれど、清張の自我をひたすら見せつけられている感じがあるのだ。
 ところが面白いことにやや後の時代に「父系の指」「五十四万石の嘘」「佐渡流人行」あたりは、内容は相変わらず暗いものの、力まかせに押すだけではなくなってきている。構成を工夫し、オチにも変化をつける。要するに上手くなっているのだ。長年勤めていた朝日新聞を辞めたのもこの頃だったらしく、そういう成長が彼に作家一本で行く決心をつけさせたともいえるのだろう。

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Comments
 
めとろんさん

「断碑」ですか。個人的にはあの手のものが一番堪えるんですが(笑)、初期の短篇にはけっこう多いですよね。とにかくジワジワとボディに効いてきます。
女性が読んで納得いくかどうかは予想つかないですが、ただ、最近はああいう人、実際にいますよね……(恐)
 清張三題噺
こんばんは、遅ればせながらのコメントです。

拙ブログに松本清張原作の『黒い画集 ある遭難』をアップした縁で、(?)コメントさせて頂きます。

―というか、私も清張氏の良い読者ではなかったので、共感致します。(笑)今回、僅かながらの文章を書くためにかなりの作品を読みました。そこで思ったこと。

★松本清張三題噺
一、厭なキャラクター
一、厭な物語
一、厭な結末(笑)

…これが全て揃ったのが清張作品ではないかと(笑)
ちなみに、短編では『断碑』が好き…というと語弊がありますが、心揺さぶられました。あの奥さん…女性はどう読むのでしょうか。納得いくのかなあ。その死には慄然とし、しばし絶句。ズーンと腹にこたえます。


 
緋色悠依さん

はじめまして。
少年探偵団やホームズから始まり、創元の名作群へと読み進んでいった人間には、なかなか清張を読もうという意識すら起きないんですよね。ミステリを読み始めてもうン十年になりますが、ようやく清張が好きになりかけているところです(苦笑)。

>生誕百周年でいろいろと企画がありそうで楽しみです。

映画化・テレビ化はもちろん、松本清張記念館の全国巡回展なども始まるそうですね。記念館のお膝元・小倉では、リーガロイヤルホテル小倉で「松本清張生誕100年記念・宿泊プラン」などというものまで登場したそうです。
 こんにちは
松本清張は少し陰謀理論が目立ちますけどいいですよね。好きな作家さんです。

足音を跫(然)と表現してみせるのは、作家として漢字の使い方のうまさがひかります。
生誕百周年でいろいろと企画がありそうで楽しみです。
 
涼さん

>余談ですが、前エントリーで本の帯について書いていらっしゃったのは、やはりいろいろな角度からごらんになるのだなと思いました。

ちょっと無粋かとも思いましたが、ま、自分も商売にしてるんでどうしても気になりますね。無論キャッチだけじゃなく装丁や紙質も含めて、いいのがあると、あ、これは参考になるなと、そんなことばかり考えております(苦笑)。
 懐かしい作品ばかり
おはようございます

「菊枕」は非常に印象に残っています。
後年のミステリから読み始めたので、こういう作品もあるというのが新鮮でした。

余談ですが、前エントリーで本の帯について書いていらっしゃったのは、やはりいろいろな角度からごらんになるのだなと思いました。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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