- Date: Thu 16 04 2009
- Category: 国内作家 松本清張
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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松本清張『松本清張短編全集03張込み』(光文社文庫)
マイブームの松本清張短編全集もこれで三つ目。各短編のボリュームはそれほどあるわけではないが、相変わらず濃い作品ばかりで、読み終えるとかなり胃にもたれる(苦笑)。とりあえず収録作を見てみよう。
「張込み」
「腹中の敵」
「菊枕」
「断碑」
「石の骨」
「父系の指」
「五十四万石の嘘」
「佐渡流人行」

もっとも知られているのは「張込み」か。今では清張ミステリの原点とも言われる作品で、事件を通して描かれるのは、トリックやロジックではなく、犯人をかつて愛した女の心理である。そのテイストから当時はミステリと思われなかったそうだが、平凡に見えた発端から意外な方向に物語が流れていくのは、十分に読者をひっぱるだけの興味を備えており、このドキドキ感はやはりミステリのそれだろう(広義の、だけど)。もちろん、それは今の人間だからいえる感想なのだが。
なお、残念ながら本作でのミステリは「張込み」のみで、清張の創作がミステリ中心になるのはもうちょっと後の話。本作に収められているのは昭和三十年頃の作品なのだけれど、あくまで中心は歴史物も含めて人間のドラマだ。
とりわけこの頃の作品に顕著なのは、才能も野心もあるけれど、生まれが恵まれていないために不遇な生涯を送るというパターン。「菊枕」「断碑」「石の骨」などはどれもそのライン上の作品で、清張が主人公に自分の姿を重ね合わせているというのは定説のようだが、繰り返し語られる苦悩や執念は尋常ではない。しかもほとんどの場合ハッピーエンドとはならず、読後感も決してよいものではない。興味深い内容だけれど、清張の自我をひたすら見せつけられている感じがあるのだ。
ところが面白いことにやや後の時代に「父系の指」「五十四万石の嘘」「佐渡流人行」あたりは、内容は相変わらず暗いものの、力まかせに押すだけではなくなってきている。構成を工夫し、オチにも変化をつける。要するに上手くなっているのだ。長年勤めていた朝日新聞を辞めたのもこの頃だったらしく、そういう成長が彼に作家一本で行く決心をつけさせたともいえるのだろう。
「張込み」
「腹中の敵」
「菊枕」
「断碑」
「石の骨」
「父系の指」
「五十四万石の嘘」
「佐渡流人行」

もっとも知られているのは「張込み」か。今では清張ミステリの原点とも言われる作品で、事件を通して描かれるのは、トリックやロジックではなく、犯人をかつて愛した女の心理である。そのテイストから当時はミステリと思われなかったそうだが、平凡に見えた発端から意外な方向に物語が流れていくのは、十分に読者をひっぱるだけの興味を備えており、このドキドキ感はやはりミステリのそれだろう(広義の、だけど)。もちろん、それは今の人間だからいえる感想なのだが。
なお、残念ながら本作でのミステリは「張込み」のみで、清張の創作がミステリ中心になるのはもうちょっと後の話。本作に収められているのは昭和三十年頃の作品なのだけれど、あくまで中心は歴史物も含めて人間のドラマだ。
とりわけこの頃の作品に顕著なのは、才能も野心もあるけれど、生まれが恵まれていないために不遇な生涯を送るというパターン。「菊枕」「断碑」「石の骨」などはどれもそのライン上の作品で、清張が主人公に自分の姿を重ね合わせているというのは定説のようだが、繰り返し語られる苦悩や執念は尋常ではない。しかもほとんどの場合ハッピーエンドとはならず、読後感も決してよいものではない。興味深い内容だけれど、清張の自我をひたすら見せつけられている感じがあるのだ。
ところが面白いことにやや後の時代に「父系の指」「五十四万石の嘘」「佐渡流人行」あたりは、内容は相変わらず暗いものの、力まかせに押すだけではなくなってきている。構成を工夫し、オチにも変化をつける。要するに上手くなっているのだ。長年勤めていた朝日新聞を辞めたのもこの頃だったらしく、そういう成長が彼に作家一本で行く決心をつけさせたともいえるのだろう。
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「断碑」ですか。個人的にはあの手のものが一番堪えるんですが(笑)、初期の短篇にはけっこう多いですよね。とにかくジワジワとボディに効いてきます。
女性が読んで納得いくかどうかは予想つかないですが、ただ、最近はああいう人、実際にいますよね……(恐)