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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マイクル・イネス『アリントン邸の怪事件』(長崎出版)

 ここ数年で翻訳されているイネスの作品はほとんど初期のものが中心だが、本日の読了本『アリントン邸の怪事件』は珍しく後期の作品。
 文学趣味や学術的な蘊蓄に彩られた高尚な探偵小説を書きたかったのか、それとも一定のルールにのっとった様式的バカ話が書きたかったのか、実はいまでも確信を持てないままイネスの作品を読みすすめているのだけれど、いつもちぐはぐな読後感ばかりが残る始末。個人的には『証拠は語る』がもっともバランスも良く、しっくりきたのだが、さて『アリントン邸の怪事件』はどうか。

 アリントン邸の怪事件

 今では警視総監の座も退き、悠々自適の生活を楽しむアプルビイ。その日はアリントン・パークと呼ばれる広大な屋敷の夕食会に招かれていた。食後、主人のオーウェン・アリントンに誘われ、余興のイルミネーションを見せてもらったアプルビイだが、なんとそこで感電死したと思われる死体を発見する。さらには翌日の慈善イベントでオーウェンの跡取りと目されていた甥のマーティンがパーク内の池から死体となって見つかり、アプルビイは否応なく事件に巻き込まれていく。

 ううむ。成り上がり一家のどんちゃん騒ぎや死体の妙な発見状況など、独特のユーモアセンスは健在なものの、全体的にはややおとなしい印象である。
 伏線などは巧く張ってあるのだが、物語の中盤に入っても事件の核となる部分が見えにくいこともあって、結果的には緊張感を欠いたまま物語がだらだらと流れる印象が強い。そのくせ謎解きは性急。蘊蓄も少ないし、イネス作品のなかでは読みやすいものの、物語を引っ張る力が弱い。個人的にはあまりドタバタは好きでないのだが、これなら宝探しネタでもう少しかき回してもよかったのでは。

 上でも書いたとおり本作は後期の作品なのだが、テイスト自体は『証拠は語る』に似ており、とっつきは悪くない。とはいえ、後期からセレクトすることによって、読者はいきなり警視総監を引退したアプルビイと対面することになり、少々戸惑うのも事実。願わくば全翻訳が行われ、そのなかで各作品の位置づけなどを見たいなぁと思う次第。各出版社さん、ぜひともよろしくです。

 なお、内容とは関係ないのだが、巻頭に掲載されている「読者へのささやかな道案内」はいったい何なのだ(苦笑)。
 ジュヴナイルとかならともかく、イネスを読もうかという人にああいう解説は不要。しかも「ささやかな」と書いてある割にはけっこう詳しく内容に触れていたりして、意外に危険度も高い。”ですます調”もなんだか小馬鹿にされているような気がするし、あれは止めた方がいいんじゃないだろうか。

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Comments

Edit

ポール・ブリッツさん

結局、役に立つ立たないではなく、"無粋"なんですね。個人的には下手な解説より、著作リストや作者の経歴などをまずしっかりフォローしてほしいものですが。

Posted at 21:56 on 04 26, 2009  by sugata

Edit

アリントン邸読みました。

巻頭言つけたおせっかいな輩をAK74で蜂の巣にしたくなりました。

まったくもう(><)

Posted at 17:36 on 04 26, 2009  by ポール・ブリッツ

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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