- Date: Thu 30 04 2009
- Category: 国内作家 橋本五郎
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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橋本五郎『橋本五郎探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
『橋本五郎探偵小説選II』を読む。先だって読んだ『橋本五郎探偵小説選I』はデビュー作を筆頭に初期の作品を集めたものだったが、本書は著者唯一の長編『疑問の三』以降に発表された後期の作品を集めたもの。収録作は以下のとおりで、「箪笥の中の囚人」から「双眼鏡で聴く」までは"はとノ"を探偵役とするシリーズものとなっている。
なお、"はとノ"の"はと"は漢字一文字で、"蒙鳥"と書きます。"ノ"はこのままでOK。
<創作篇>
「箪笥の中の囚人」
「花爆弾」
「空中踊子」
「寝顔」
「双眼鏡で聴く」
「第二十九番目の父」
「鮫人の掟」
「鍋」
「樽開かず」
「叮寧左門」
「二十一番街の客」
「印度手品」
<評論・随筆篇>
「やけ敬の話」
「大下宇陀児」
「フレチヤーの大・オップンハイムの強さ」
「才気過人」
「支那の探偵小説」
「近藤勇の刀」
「大下宇陀児を語る」
「ポワロ読後」
「広瀬中佐の前」
「支那偵探案「仙城奇案」」
「盲人の蛇に等し」
「面白い話」
「探偵小説の面白さと面白くなさ」
「アンケート」

デビュー当時はそれなりに注目されていた橋本五郎。しかしクセのない作風が逆に災いしたか、その後は大きな注目も浴びることなく、徐々に探偵小説から離れていった作家である。『橋本五郎探偵小説選I』ではその弱点を確認するかのような読書になってしまったのだが、さて本書はどうかというと、まあ結論をいえばそれほど大きな違いはない。
とはいえ見逃せない点もちらほら。
まず注目は、シリーズ探偵が登場すること。戦前には数少ないシリーズ探偵ということだけでなく、一応は本格仕立てである。実は読む前には、探偵小説から離れてゆく過程の作品を集めただけに、『~I』以上に弱いミステリばかりではと危惧していたのだが、むしろ『~I』よりは読ませる。何となく押しの弱かった作品に、シリーズ探偵や本格仕立てという明快な芯が加わったことで、それなりに物語をひっぱる力が生まれている。様式美が探偵小説にとって重要なファクターであることを、あらためて実感した次第。もちろんそれがすべてではないけれど。
印象に残った作品は、"はとノ"シリーズだと「箪笥の中の囚人」や「空中踊子」あたり。発端と事件の真相がかけ離れている点が見どころ。"はとノ"の探偵振りは奇をてらったものではないから好ましくはあるけれど、同時に物足りなさを感じるのも事実。この加減が難しい。
他にはアンソロジーで比較的採られることの多い「鮫人の掟」。旧式の潜水服や海中に顕れる殺人者という設定はオリジナリティが高い。ややバタバタした印象もあるし、トリックもこんなものだろうけど、この雰囲気は買い。古代ギリシャを舞台にした「樽開かず」、捕物帖の「叮寧左門」も同様で、意外に趣向を凝らしている作品が多いのは嬉しい誤算だった。
とまあ、今回はかなり生温かい目で見てしまったが、基本的には上でも書いたように『~I』と大差はないので、過度な期待はしないでほしい(笑)。あくまで「戦前の探偵小説にしては」というフィルターで読んでもらうのが吉であろう。
なお、"はとノ"の"はと"は漢字一文字で、"蒙鳥"と書きます。"ノ"はこのままでOK。
<創作篇>
「箪笥の中の囚人」
「花爆弾」
「空中踊子」
「寝顔」
「双眼鏡で聴く」
「第二十九番目の父」
「鮫人の掟」
「鍋」
「樽開かず」
「叮寧左門」
「二十一番街の客」
「印度手品」
<評論・随筆篇>
「やけ敬の話」
「大下宇陀児」
「フレチヤーの大・オップンハイムの強さ」
「才気過人」
「支那の探偵小説」
「近藤勇の刀」
「大下宇陀児を語る」
「ポワロ読後」
「広瀬中佐の前」
「支那偵探案「仙城奇案」」
「盲人の蛇に等し」
「面白い話」
「探偵小説の面白さと面白くなさ」
「アンケート」

デビュー当時はそれなりに注目されていた橋本五郎。しかしクセのない作風が逆に災いしたか、その後は大きな注目も浴びることなく、徐々に探偵小説から離れていった作家である。『橋本五郎探偵小説選I』ではその弱点を確認するかのような読書になってしまったのだが、さて本書はどうかというと、まあ結論をいえばそれほど大きな違いはない。
とはいえ見逃せない点もちらほら。
まず注目は、シリーズ探偵が登場すること。戦前には数少ないシリーズ探偵ということだけでなく、一応は本格仕立てである。実は読む前には、探偵小説から離れてゆく過程の作品を集めただけに、『~I』以上に弱いミステリばかりではと危惧していたのだが、むしろ『~I』よりは読ませる。何となく押しの弱かった作品に、シリーズ探偵や本格仕立てという明快な芯が加わったことで、それなりに物語をひっぱる力が生まれている。様式美が探偵小説にとって重要なファクターであることを、あらためて実感した次第。もちろんそれがすべてではないけれど。
印象に残った作品は、"はとノ"シリーズだと「箪笥の中の囚人」や「空中踊子」あたり。発端と事件の真相がかけ離れている点が見どころ。"はとノ"の探偵振りは奇をてらったものではないから好ましくはあるけれど、同時に物足りなさを感じるのも事実。この加減が難しい。
他にはアンソロジーで比較的採られることの多い「鮫人の掟」。旧式の潜水服や海中に顕れる殺人者という設定はオリジナリティが高い。ややバタバタした印象もあるし、トリックもこんなものだろうけど、この雰囲気は買い。古代ギリシャを舞台にした「樽開かず」、捕物帖の「叮寧左門」も同様で、意外に趣向を凝らしている作品が多いのは嬉しい誤算だった。
とまあ、今回はかなり生温かい目で見てしまったが、基本的には上でも書いたように『~I』と大差はないので、過度な期待はしないでほしい(笑)。あくまで「戦前の探偵小説にしては」というフィルターで読んでもらうのが吉であろう。
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はじめまして。せっかくいらっしゃっていただいているのに、あまり好意的な感想でなくてすいません(苦笑)。
確かに分かりやすさや読みやすさは備えている作家だと思うのですが、私的にはどうしても淡泊さの方が勝ってしまっているかなという印象です。そのなかでも「箪笥の中の囚人」「空中踊子」「鮫人の掟」は、独特の味が出ていて楽しい作品ですよね。
ところで『疑問の三』以外に長篇があるとは知りませんでした。思わず事典をいくつかひっくり返して調べたのですが、どこにもそれらしいことは触れられていないですね。もしかして非ミステリなのでしょうか? まさか連作の『殺人迷路』とかいうオチではないですよね(笑)。
とりあえず今後ともいろいろご教示ください。