- Date: Sat 02 05 2009
- Category: 海外作家 アルテ(ポール)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ポール・アルテ『虎の首』(ハヤカワミステリ)
GWに本格的に突入したわけだが、海外は新型インフルエンザの流行、国内は高速道路料金値下げのせいで激混みということで(そもそもまだETC予約待ち)、おそらく近場でうだうだゴロゴロの予定。せいぜい積んである本とDVDを消化せねば。
本日の読了本は、フランスのカーの異名をとるポール・アルテの『虎の首』である。こんな話。
レドンナム村とロンドン駅で、立て続けにスーツケースから女性の手足が発見された。事件を担当するハースト警部だが捜査は混迷を極め、休暇から戻ったツイスト博士を駅まで出迎える。ところがツイスト博士が自分のスーツケースを開けると、そこには……。
一方、事件の発端となったレドンナム村では、奇妙な連続盗難事件が発生。その謎も解明されぬまま、今度は密室殺人までが起こる……。

小さな村での複雑な人間模様をベースにし、そこでインド魔術によって為されたかのような密室殺人を絡めていく。まるでカーにクリスティを足して割ったような舞台設定。これだけでも要素としては十分なはずだが、ここにスーツケースのバラバラ殺人事件、奇妙な連続盗難事件、その他諸々のエッセンスを盛り込み、中盤まではまったく飽きさせない。
ただ、メインとなる各事件の真相がいまいち。特に密室殺人はひどい。動機や犯行機会などを考えると、ほとんど犯人も絞られるし、魔術的要素なんていつぞやの作品にもあったような噴飯もののトリックである。盛り込むのはよいが、それだけにひとつひとつがあまり練り込まれていない印象。
ところが本作にはそれよりまずい点がある。それは各事件の関連性だ。偶然性に頼りすぎているという部分も強いし、そもそもこういう処理が許されるなら何でもありではないか。本格で高い水準を維持するのはなかなか大変なことだとは思うが、小器用な作家ならこのパターンでいくつでも書けるのでは? 残念ながらそんなわけで個人的にはシリーズ中でもワースト。
なお、同じ仏作家のピエール・シニアックに『ウサギ料理は殺しの味』(中公文庫)という作品がある。やや読みにくさはあるけれど、事件の関連性や因果関係という点をここまで茶化して書いた作品はなく、超おすすめ。『虎の首』にがっかりした人はどうぞ。
ただし絶版ゆえ入手は古書店で(ネット古書店で簡単に見つかるはずです)。
本日の読了本は、フランスのカーの異名をとるポール・アルテの『虎の首』である。こんな話。
レドンナム村とロンドン駅で、立て続けにスーツケースから女性の手足が発見された。事件を担当するハースト警部だが捜査は混迷を極め、休暇から戻ったツイスト博士を駅まで出迎える。ところがツイスト博士が自分のスーツケースを開けると、そこには……。
一方、事件の発端となったレドンナム村では、奇妙な連続盗難事件が発生。その謎も解明されぬまま、今度は密室殺人までが起こる……。

小さな村での複雑な人間模様をベースにし、そこでインド魔術によって為されたかのような密室殺人を絡めていく。まるでカーにクリスティを足して割ったような舞台設定。これだけでも要素としては十分なはずだが、ここにスーツケースのバラバラ殺人事件、奇妙な連続盗難事件、その他諸々のエッセンスを盛り込み、中盤まではまったく飽きさせない。
ただ、メインとなる各事件の真相がいまいち。特に密室殺人はひどい。動機や犯行機会などを考えると、ほとんど犯人も絞られるし、魔術的要素なんていつぞやの作品にもあったような噴飯もののトリックである。盛り込むのはよいが、それだけにひとつひとつがあまり練り込まれていない印象。
ところが本作にはそれよりまずい点がある。それは各事件の関連性だ。偶然性に頼りすぎているという部分も強いし、そもそもこういう処理が許されるなら何でもありではないか。本格で高い水準を維持するのはなかなか大変なことだとは思うが、小器用な作家ならこのパターンでいくつでも書けるのでは? 残念ながらそんなわけで個人的にはシリーズ中でもワースト。
なお、同じ仏作家のピエール・シニアックに『ウサギ料理は殺しの味』(中公文庫)という作品がある。やや読みにくさはあるけれど、事件の関連性や因果関係という点をここまで茶化して書いた作品はなく、超おすすめ。『虎の首』にがっかりした人はどうぞ。
ただし絶版ゆえ入手は古書店で(ネット古書店で簡単に見つかるはずです)。
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>でも今までけっこう淡白だった人間模様が今回はクリスティのように面白かったので、そういうふくらみを持たせつつ謎の構成もがっちりしてくれたら、さらなる傑作が生まれるのでは、とアルテには期待しています。
実に同感です。確かにドラマが意外にしっかり書かれていたところは、今回、評価したい部分ですね。
『ウサギ料理~』は未読でしたか。一応、必読と申し上げておきますが、もしかしたら「なんじゃこれは?」となる可能性も大です(笑)。ちなみに訳者は、あの藤田宣永です。