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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


蒼井雄『船富家の惨劇』(春陽文庫)

 蒼井雄の『船富家の惨劇』読了。
 ううむ、一週間もかかってしまった。『瀬戸内海の惨劇』もそうだったが、やはり蒼井雄の文章は正直、読みやすいほうではないと思う。説明が長すぎたり堅すぎたりして、リズムに乗りにくいというか。しかも地の分より会話文の方が読みにくく感じるのは気のせいか。自然描写などはわりといいのだけれど。
 物語の構成に関しても、相変わらず手並みがよいとはいえない。最初の事件の一時的な解決、意表をつく犯人の追跡劇、さらなる惨劇等、緩急をつけようとがんばっていることはすごく理解できるのだけれど、お話としてはもう少し自然に、そしてスムーズに流してほしかったところだ。

 ただ、これもあれも、すべては著者のとことん書き尽くしたいという作家魂のゆえと、好意的に解釈しておきたい。というのも、いくつかの欠点にさえ眼をつむれば、本書は探偵小説として間違いなく傑作であるからだ。その出来は『瀬戸内海の惨劇』の比ではない。
 惜しげもなく使ったトリックの数々、全編を貫く仕掛け、おそらくは執筆時点で著者が考えていたことは残らず盛り込んだ感がある。とりわけイーデン・フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』を単なるモチーフに終わらせていないところなどはお見事。まさに会心の作。戦前のベスト10を組んだら間違いなく当確であろう。
 蛇足になるが、個人的に『瀬戸内海の惨劇』を先に読んでしまったため、探偵役の存在にも驚いてしまった。ただしあの物語に超人的な探偵役はどうかとも思ったが……。

 なお、管理人は春陽文庫で読んだが、これは絶版。今は創元推理文庫『日本探偵小説全集〈12〉名作集2』が比較的入手しやすい。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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