fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


スティーヴ・ホッケンスミス『荒野のホームズ』(ハヤカワミステリ)

 10日振りに浮上。この間に何をしていたかというと、特別変わったこともなかったのだが、微妙にストレスが溜まる仕事が続いていたり、そのせいかどうかは知らぬが体調をやや崩したり、ディズニーシーのミラコスタで部下の結婚式に出てみたり、遂にETCを購入したり、という日々。読書は遅々として進まず。

 で、何とかかんとか読み終えたのが、昨年の『このミス』等でランクインしていたスティーヴ・ホッケンスミスの『荒野のホームズ』。今月にはその第二弾『荒野のホームズ、西へ行く』が出るというので、とりあえず一作目の消化に努めた次第。こんな話。

 兄はオールド・レッドことグスタフ・アムリングマイヤー。一方の弟はビッグ・レッドことオットー・アムリングマイヤー。二人は洪水で家族を失い、たった二人だけ生き残った家族だった。雇われカウボーイとして西部を渡り歩く彼らは、ある日のこと、評判のあまりよろしくない牧場に雇われる。案の定、その牧場で一人の男が命を落としたが、オットーはそのとき、グスタフの目が輝いたことに気がついていた。
 グスタフが心から心酔する男、その名はシャーロック・ホームズ。グスタフがこれまで学んできたその捜査法を、ついに試すときがきたのだ。

 荒野のホームズ

 これはもうアイディアの圧倒的勝利である。西部劇とミステリの合体などいかにもありそうな感じなのだが、これが思いのほか少ない。古くはM・D・ポーストのアブナー伯父シリーズ、最近のものだとエドワード・D・ホックのベン・スノウ・シリーズぐらいか。ルイス・ラムーアとかエルモア・レナード、ロバート・B・パーカーなどは両方書いているが、ミックスされたものは記憶にない(こっちが知らないだけかもしらないが)
 とまあ西部劇とミステリの合体だけでも珍しいのに、これにホームズという要素を絡め、見事なパスティーシュに仕上げてしまったのが本作。

 ホームズに心酔するカウボーイが、その捜査法を用いて事件を解決するというだけでも十分なのだが、設定はさらにちょっとした捻りを加えている。実は探偵役のグスタフは貧しい家の生まれのため、教育らしい教育をほとんど受けておらず、読み書きがまったく出来ないのである。その兄をサポートするのがワトスン役を務める弟のオットー。頭の回転は兄よりもだいぶ落ちるが、末っ子の彼だけはしっかりとした教育を受けさせてもらい、事務職の経験まである。正にワトソン役にうってつけ(笑)。
 したがって、本作の二人は血縁という関係だけでなく、捜査をするうえで欠かすことの出来ない相棒なのであり、その結びつきは本家をも凌駕するのだ。
 ここまで世界観やキャラクターがしっかりしていると、事件が多少つまらなくてもエンターテインメントとしては十分楽しめるわけで、まず成功は約束されたようなものだろう。

 ただ、これがデビュー長篇のせいなのか、構成は少々あまく感じられた。とりわけ序盤は、メインのストーリーと平行して、二人の境遇や世界観、ホームズに惹かれたきっかけのエピソードなどを混ぜながら、割とまったり目に描写してゆくので、あまりスピード感が感じられず、リズムも悪い。ひとつひとつの場面は悪くないだけに、これがとにかくもったいない。プロローグもじゃまな印象。
 また、事件そのものも複雑すぎる嫌いがある。この時代や舞台設定を考えると、ここまで凝った事件が果たして必要だったのか。伏線も張りまくるのはいいのだが、ほんとに無駄なくすべてを活用しようとしているようで余裕がなく、結果、最後の謎解きシーンが情報の大洪水となってしまうのはいただけない。
 さらに、無いものねだりでいうと、ラストの撃ち合いはもう少し格好良くしめてもらいたかった。せっかくの西部劇なのだから、これは単純に残念。

 ううむ、読んでいる間は十分楽しめたのだが、あらためて感想を書いてみると、けっこう欠点も多いなぁ。ただ、純粋に技術的な短所だとは思うので、この辺は二作、三作とだんだん上手くなっていく気はする。とりあえず二作目待ちか。

関連記事

Comments

Edit

ポール・ブリッツさん

狙いはいいんですが、結局、まだまだ作品としては粗いんでしょうね。でも二作目はもっと面白くなるはずと、勝手に期待しております。
『天城一傑作集4風の時/狼の時』は速攻で買いましたが、通勤のお供には少々辛いゆえ、しばらく積ん読です。読めるのはお盆休みぐらいかな?

Posted at 00:27 on 06 16, 2009  by sugata

Edit

「荒野のホームズ」読了しました。
面白い作品であったとは思いますが、ホームズ流の捜査手法と、西部劇の世界と、現代ミステリによくある凝った真相とが、いまひとつマッチしていないような感じがしました。どことなくちぐはぐというか。
シリーズの次の作品も読みたくなるものであることには間違いないのですが、「このミス」のランキングに入るような作品だとは思えません。22位くらいにぼそっと入っていたりするのが似合いであるように思いました。
本作を読んで、グスタフとオットーの兄弟のところに「空家事件」の載ったストランド誌を握ってかけつけてやりたい、と心底思いましたが(思わなかったミステリファンはモグリだ(笑))、作中の年代設定ではまだ出版されていなかったんでしたっけ?
次作も図書館で予約だ~♪

図書館に天城一「風の時/狼の時」が入ったのであさって借りに行きます。どきどきわくわくるんるん♪

Posted at 17:41 on 06 15, 2009  by ポール・ブリッツ

Edit

涼さん

『荒野のホームズ、西へ行く』、買いました。上手くやればウェスタンならではのトリック、仕掛け等は、かなり考えられるので、期待はしたいですね。
ところで「未読本が山積み」はわかるのですが、「読了後ほったらかしの本」というのは、どういう状態なのでしょうか(笑)。

Posted at 23:45 on 06 14, 2009  by sugata

Edit

おもしろそうだなと思ってBK1をチェックしてみると、「荒野のホームズ、西へ行く」も発売されているようでした。

でも、まだまだ未読本が山積みなのです。いえその前に、読了後ほったらかしの本がいっぱいあるのですが。

Posted at 12:23 on 06 14, 2009  by

Edit

ポール・ブリッツさん

『荒野のホームズ』は「ホームズ云々」という部分を除いてしまえば、西部劇といっても通じるぐらいの書き方はしているので、西部劇が苦手な人には正直オススメはできません。ただし、西部劇という趣向をうまく活かしてはいますから、好きでも嫌いでもない、という程度であれば、一作ぐらいは読んでみてもいいかもしれませんね。
少々ぬるいオススメで申し訳ないですが、「傑作!」というにはもうひとつ足りないんですよねえ。

Posted at 01:19 on 06 13, 2009  by sugata

Edit

面白そうですね。図書館にあるので、読んでみたいと思います。

タイトルだけ見て、「ノヴェンバー・ジョー」みたいなものかと思い敬遠してましたが(いや、「ノヴェンバー・ジョー」は好きなんですけど)、バリバリの西部劇らしいですね。「このミス」ランクインしていたのは不覚にも見落としておりました。

読んだらコメントしますね~♪

Posted at 17:43 on 06 12, 2009  by ポール・ブリッツ

« »

09 2023
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー