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ヘスキス・プリチャード『ノヴェンバー・ジョーの事件簿』(論創海外ミステリ)
『ノヴェンバー・ジョーの事件簿』を読む。ノヴェンバー・ジョーはイギリスの作家ヘスキス・プリチャードの生み出した〈ホームズのライバルたち〉の一人。カナダの森林地帯で鹿狩りのガイドを営むかたわら、ホームズばりの観察力と推理力で事件の謎を解いてゆく。

収録作は以下のとおり。連作短編集ではあるが、目次は章立てになっており、パッと見は長篇風。
詳しく書くと、頭の二章「サー・アンドルーの助言」「ノヴェンバー・ジョー」はワトソン役の語り手とノヴェンバー・ジョーの出会いを描く話で、プロローグ的な位置づけ。「ビッグ・ツリー・ポーテッジの犯罪」から「フレッチャー・バックマンの謎」までの八章はすべて独立した短篇。そして「リンダ・ピーターシャム」から「都会か森か」までの六章は合わせてひとつの中編という構成となっている。
Sir Andrew's Advice「サー・アンドルーの助言」
November Joe「ノヴェンバー・ジョー」
The Crime at Big Tree Portage「ビッグ・ツリー・ポーテッジの犯罪」
The Seven Lumber-Jacks「七人のきこり」
The Black Fox Skin「黒狐の毛皮」
The Murder at the Duck Club「ダック・クラブ殺人事件」
The Case of Miss Virginia Planx「ミス・ヴァージニア・プランクス事件」
The Hundred Thousand Dollar Robbery「十万ドル強盗事件」
The Looted Island「略奪に遭った島」
The Mystery of Fletcher Buckman「フレッチャー・バックマンの謎」
Linda Petersham「リンダ・ピーターシャム」
Kalmacks「カルマクス」
The Men of the Mountains「山の男たち」
The Man in the Black Hat「黒い帽子の男」
The Capture「逮捕」
The City or the Woods?「都会か森か」
さて、主人公のノヴェンバー・ジョー。彼は鹿狩りのガイドを生業としている。体は逞しく、しかも男前。人見知りなところはあるが落ち着いた性格で、誰からも好かれるという絵に描いたような好青年。ひとたび事件が発生すれば鋭い観察力と推理でたちまち真相を見破り、その実力はケベック地方警察からも仕事を依頼されるほど、という設定である。
少々やりすぎの感すらあるキャラ設定だが、まあ、この当時のシリーズ探偵はみな個性的なのでこれぐらいは当たり前。設定はユニークなれども、むしろ人間的にはいたってまともな主人公なので、逆にアクが少ない印象を受けるくらいだ。また、語り手であるクォリッチ氏が年配の都会人という設定上、地の文も比較的落ち着いた語りとなっている。ただ実はこれらが曲者。
というのも本書で予想されるイメージは、あくまで野趣溢れる世界の中でのホームズ譚。ところが(著者が意図したかどうかはわからないけれど)、作品中で描写される人々や社会は意外に秩序立っている印象が強く、語りもあくまで上品。本来、感じて然るべきであろうワイルドさやエキゾチズムはほとんど感じず、極端なことをいうと、正にホームズものの読後感に近いのである。
そういう意味では、エキゾチックなミステリを読みたいとか、ちょっと毛色の変わったミステリを読みたいという人には、意外と期待はずれになるかもしれない。
むしろ本書は、普通にクラシックな本格短篇を読みたいという人にこそオススメしたい。
ガチガチというほどではないけれど、本格の渇きを潤すには十分な出来であり、大自然に隠された謎を、ホームズ流に解くとどうなるか、という興味で読むのが吉。謎解き要素に冒険的な要素が加わる分だけ、ソーンダイク博士や隅の老人あたりよりも、よっぽどホームズもののエッセンスを取り入れているといえるだろう。

収録作は以下のとおり。連作短編集ではあるが、目次は章立てになっており、パッと見は長篇風。
詳しく書くと、頭の二章「サー・アンドルーの助言」「ノヴェンバー・ジョー」はワトソン役の語り手とノヴェンバー・ジョーの出会いを描く話で、プロローグ的な位置づけ。「ビッグ・ツリー・ポーテッジの犯罪」から「フレッチャー・バックマンの謎」までの八章はすべて独立した短篇。そして「リンダ・ピーターシャム」から「都会か森か」までの六章は合わせてひとつの中編という構成となっている。
Sir Andrew's Advice「サー・アンドルーの助言」
November Joe「ノヴェンバー・ジョー」
The Crime at Big Tree Portage「ビッグ・ツリー・ポーテッジの犯罪」
The Seven Lumber-Jacks「七人のきこり」
The Black Fox Skin「黒狐の毛皮」
The Murder at the Duck Club「ダック・クラブ殺人事件」
The Case of Miss Virginia Planx「ミス・ヴァージニア・プランクス事件」
The Hundred Thousand Dollar Robbery「十万ドル強盗事件」
The Looted Island「略奪に遭った島」
The Mystery of Fletcher Buckman「フレッチャー・バックマンの謎」
Linda Petersham「リンダ・ピーターシャム」
Kalmacks「カルマクス」
The Men of the Mountains「山の男たち」
The Man in the Black Hat「黒い帽子の男」
The Capture「逮捕」
The City or the Woods?「都会か森か」
さて、主人公のノヴェンバー・ジョー。彼は鹿狩りのガイドを生業としている。体は逞しく、しかも男前。人見知りなところはあるが落ち着いた性格で、誰からも好かれるという絵に描いたような好青年。ひとたび事件が発生すれば鋭い観察力と推理でたちまち真相を見破り、その実力はケベック地方警察からも仕事を依頼されるほど、という設定である。
少々やりすぎの感すらあるキャラ設定だが、まあ、この当時のシリーズ探偵はみな個性的なのでこれぐらいは当たり前。設定はユニークなれども、むしろ人間的にはいたってまともな主人公なので、逆にアクが少ない印象を受けるくらいだ。また、語り手であるクォリッチ氏が年配の都会人という設定上、地の文も比較的落ち着いた語りとなっている。ただ実はこれらが曲者。
というのも本書で予想されるイメージは、あくまで野趣溢れる世界の中でのホームズ譚。ところが(著者が意図したかどうかはわからないけれど)、作品中で描写される人々や社会は意外に秩序立っている印象が強く、語りもあくまで上品。本来、感じて然るべきであろうワイルドさやエキゾチズムはほとんど感じず、極端なことをいうと、正にホームズものの読後感に近いのである。
そういう意味では、エキゾチックなミステリを読みたいとか、ちょっと毛色の変わったミステリを読みたいという人には、意外と期待はずれになるかもしれない。
むしろ本書は、普通にクラシックな本格短篇を読みたいという人にこそオススメしたい。
ガチガチというほどではないけれど、本格の渇きを潤すには十分な出来であり、大自然に隠された謎を、ホームズ流に解くとどうなるか、という興味で読むのが吉。謎解き要素に冒険的な要素が加わる分だけ、ソーンダイク博士や隅の老人あたりよりも、よっぽどホームズもののエッセンスを取り入れているといえるだろう。
Comments
Edit
この手の「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」に分類される往年の名探偵が大好きなわたしは楽しく読みました。日ごろの憂さを忘れるには絶好の本のひとつだと思います。
あの時代の粗製乱造ぶりを嫌う人もいるみたいですが、本書はそんな中では、かなり良心的な作りになっているのでは。
確かに、設定に比して名探偵がソーンダイクかと思うほど真面目でまともな常識人ですので、ちとアクにとぼしいのがこれまで埋もれていた原因かもしれませんけれど。
収録短編では、「黒狐の毛皮」事件と「十万ドル強盗事件」事件がいちばん好みかな……?
個人的には、ジョーは読み書きは苦手だけれど文盲ではないと思いたいのですが、どうでしょうかねえ(^^)
「風の時/狼の時」借りてきました。明日からスーパーの39円のレモンライムドリンクをなめなめちびちび読みます(^^) 分厚いから相当もちそうです(^^)
Posted at 16:47 on 06 17, 2009 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
そうですね。作風は意外と地味なんですが、予想以上に端正にまとまっていて、ちょっと驚きでした。
最後のエピソードで、ロマンスがあったり、森林に残るか都会に出るか、なんて選択肢が出るあたりも、物語を大事にしている印象でなかなか好印象でした。
Posted at 23:53 on 06 17, 2009 by sugata