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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


エドワード・D・ホック『サイモン・アークの事件簿 I』(創元推理文庫)

 更新がまたもや滞ってしまった。決してたっぷりお盆休みをとっていたのでなく、むしろ仕事三昧。先週末も仕事をテイクアウトし、自宅で黙々とこなす。その間に世間では、押尾学や酒井法子が事件を起こしたり、大原麗子や山城新伍が亡くなったり、地震や台風が猛威を振るったりと、まあ何という世の中であることよ。


 読書にもあまり集中できないから軽いものを、ということで、この一週間はエドワード・D・ホックの『サイモン・アークの事件簿』をぼちぼち読み進めていた。
 ホックが生んだ数多い探偵役のなかでも、最初に誕生したのが、このオカルト探偵サイモン・アーク。50年の長きに渡って書き続けられたこのシリーズの全貌を紹介するという意味もあり、本書ではシリーズ第一作にしてホックのデビュー短編でもある「死者の村」をはじめとして、各年代から代表作をセレクトするという構成をとっている。
 収録作は以下のとおり。他のアンソロジーやら雑誌やらからの転載も多く、意外に既読が多かったのがやや残念だったが、こうして一冊にまとめる意義は十分にあるだろう。

The Village of the Dead「死者の村」
The Vicar of Hell「地獄の代理人」
Day of the Wizard「魔術師の日」
Funeral in the Fog「霧の中の埋葬」
The Man Who Shot the Werewolf「狼男を撃った男」
The S.S.S.「悪魔撲滅教団」
The Touch of Kolyada「妖精コリヤダ」
The Society of the Scar「傷痕同盟」
Master of Miracles「奇蹟の教祖」
The Faraway Quilters「キルトを縫わないキルター」

 サイモン・アークの事件簿

 サイモン・アークは、悪魔や超常現象の専門家である。数々の怪奇な事件に出馬を要請されるアークだが、その尋常ではない知識、さらには二千歳とも噂される年齢など、事件以上に彼自身がミステリアスな存在でもある。
 とはいえ、ベースになるのはあくまで本格もの。初期の作品こそオリジナリティを出すために雰囲気や設定に注力したという印象はあるのだが、後期の作品ほどオカルト色は薄まり、アークもずいぶん普通になってしまうのが何ともはや。逆にいえば思ったほどのクセはないので、ホックの短編が好きな方なら、誰でも普通に楽しめるだろう。
 ただ、本格ものとしても若干パンチ不足の感はある。個人的にはむしろもっとオカルト色を強め、そのルールの中で成立する本格に仕立ててもらった方が、よりシリーズの独自性が強まって良かったような気はする。まあ、それが大変なんだろうけど(笑)。
 お気に入りは「死者の村」「妖精コリヤダ」「キルトを縫わないキルター」あたり。なかでもロシア版サンタクロースの謎を追う「妖精コリヤダ」は奇妙な味の系統で悪くない。II巻も企画されているそうだが、どうせならこの路線のものを多く採ってもらえると嬉しいなぁ。

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Comments

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SOLAさん

はじめまして。
ホックは探偵多すぎですから、それぞれの個性というか役目をしっかり果たしてくれないと存在意義がなくなりますよね。不可能犯罪だったら他にも適役がいますから、サイモン・アークの場合はやはりオカルト色でいってもらわないと、ですね。

「早々のアレ」というのは、ワトソン役の浮気の件でしょうか(笑)。語り手はたいがい控えめにしているものですが、ああやって羽目をはずすワトスン役は珍しいですね。ホックの身近にそういう編集者でもいたんでしょうか(苦笑)?

Posted at 17:48 on 08 16, 2009  by sugata

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奇妙な偶然で、私も『エドワード・D・ホック『サイモン・アークの事件簿 I』を読んだばかりでした。自分のブログで書評を書こうとして、検索したら、同じ時期に同じ本を(新刊でもないのに!)読んでいた方がいたと知って思わずコメント&足跡を。
感想も、ほぼ同じだったことにもびっくり。私も、もっとオカルト色強ければいいなと思いました。私が気に入ったのは「死者の村」「キルトを縫わないキルター」です。「魔術師の日」「妖精コリヤダ」は途中までは楽しく読めました。それ以外のは、まあ・・・省略な感じで(ぁ)。
個人的にはサイモンが「死者の村」のような怪しい存在のままで他の短編も進行してくれたらよかったなあと感じました。悪魔関係の本を出版するとか、そういう生活感というか実在する感じ、生きている感じが出てしまってなんだかリアルになって、魅力がなくなったと申しますか。あと、私は女性ですので、浮気をたしなめたサイモンはエライ!とか、主人公ではなくサイモンに肩入れしてしまい、早々のアレ以降、主人公に同情できなくなってしまったことも影響しているのかもしれません(笑)。
過去に遡って色々な書評を参考にさせていただきます。これからも書評楽しみにしています。

Posted at 16:33 on 08 16, 2009  by SOLA

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ポール・ブリッツさん

大谷羊太郎の長編は一冊も読んだことがないのですが、あえて読んでみよう、という理由がなかなか見つかりません。何かきっかけがあれば、また別なんでしょうが。

ホックについては全て出せとは言わないので、せめて早川とか創元で、探偵一人につき一冊ずつまとめてくれないですかねぇ。かつてポケミスで出た『ホックと13人の仲間たち』を選集にするみたいな感じ。
私もレオポルドに一票ですが、ジェフリー・ランドもけっこう好みです。

Posted at 10:58 on 08 15, 2009  by sugata

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ホックのシリーズ探偵ものは、肩がこらずによめて面白くてミステリ的にも優れているので大好きです。1000編書いていたら星新一先生を凌駕する化け物になるところでしたが、天は非情にも……(泣)
個人的には、アーク一行が砂漠に行く「魔術師の日」が好きです。密室から女が消えるトリックは月並みなものでしたが、最後に明かされる真相を読んであっといいました。
次はレオポルド警部かベン・スノウものを読みたいなあ。ロリポップ探偵ポール・タワーも好きなんですけど、ホック先生書いてくれなかったので……。


大谷羊太郎「大密室殺人事件」を読んでガッカリ。小説としては読みやすくてめちゃくちゃ面白いんだけれど、肝心の密室殺人のトリックが腰砕けで、「意外な犯人」もアンフェアじゃないのか、あれ。少なくとも梶龍雄先生の作品を読んだときのような背負い投げ感はありませんでした。
それでもこりずに、大谷氏の「濡衣を着る男」を読んでいます。4分の1ほど読みましたが、今のところムチャクチャ面白いです。
また謎解きでガッカリ、なんてことがなければいいのですが……。

ファンでしたらすみません。

Posted at 06:55 on 08 15, 2009  by ポール・ブリッツ

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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